第77章 移動キーと水汲み
「いままで、こんなに混んだことはねえ。何百って、予約だ。客はだいたいフラッと現われるもんだが...」
「そうかね?」
そう言ったアーサーさんは、釣り銭を貰おうと手を差し出したが、ロバーツさんはお釣りを寄越さない。
「そうよ。あっちこっちからだ。外国人だらけだ。それも、ただの外国人じゃねえ。変わりもんよ。なあ?キルトにポンチョを着て歩き廻ってるやつも居る」
ロバーツさんは考え深げに言った。
「いけないのかね?」
アーサーさんが心配そうにしている。
「なんていうか...その...集会かなんかみてえな。お互いに知り合いみてえだし。大掛りなパーティかなんか」
そのとき、どこからともなく、半ズボンを履いた魔法使いが小屋の戸口の脇に現われた。
「「"オブリビエイト(忘れよ)"!」」
杖をロバーツさんに向け、鋭い呪文を唱える。途端にロバーツさんの目が虚ろになり、しかめていた眉もゆるみ、夢見るようなトロンとした表情になった。これが記憶を消された瞬間の症状だ。
「キャンプ場の地図だ。それとお釣りだ」
ロバーツさんはアーサーさんに向かって穏やかに言った。
「どうも、有り難う」
アーサーさんが礼を言う。半ズボンを履いた魔法使いが、キャンプ場の入口まで付き添ってくれた。疲れきった様子で無精ヒゲをはやし、目の下に濃い隈が出来ている。ロバーツさんに聞こえないところまで来ると、その魔法使いがアーサーさんにボソボソ言う。
「あの男は、なかなか厄介でね。忘却術を1日に10回もかけないと機嫌が悪くなるんだ。しかも、ルード・バグマンがまた困り者で。あちこち飛び廻ってはブラッジャーがどうの、クァッフルがどうのと大声で喋っているんだ。マグル安全対策なんてどこ吹く風だ。まったく、これが終わったら、どんなにホッとするか。それじゃ、アーサー、またな」
姿くらまし術で、その魔法使いは消えた。
「バグマンさんて、'魔法ゲーム・スポーツ部'の部長さんでしょ?マグルのいるところで、ブラッジャーとか言っちゃいけないくらい、わかってるはずじゃないの?」
ジニーが驚いて言う。
「そのはずだよ」
アーサーさんは微笑みながらそう言うと、みんなを引き連れてキャンプ場の門をくぐった。
「しかし、ルードは安全対策にはいつも、少し...なんというか...甘いんでね」