第77章 移動キーと水汲み
テントは広々としたなだらかな傾斜地に立っていて、地平線上に黒々と見える森へと続いている。そこで、セドリックのお父さまとセドリックにさよならを言う。
「ユウミ、また学校でね」
『えぇ、セドリック。学校でね』
私たちは小屋の戸口へと近づいて行く。戸口に男の人が一人、テント群のほうを眺めて立っている。おそらく、この人は本物のマグルだ。足音を聞きつけて男の人が振り返り、こっちを見た。
「おはよう!」
明かるい声で言うアーサーさん。
「おはよう」
マグルのその人も挨拶する。
「ロバーツさんですか?」
「あいよ。そうだが。そんで、おめえさんは?」
ロバーツさんは言った。
「ウィーズリーです...テントを2張り、2日前に予約しましたよね?」
「あいよ。おめえさんの場所は、あそこの森の側だ。一泊だけかね?」
ロバーツさんはドアに貼りつけたリストを見ながら答えた。
「そうです」
アーサーさんが答える。
「そんじゃ、いますぐ払ってくれるんだろうな?」
「え...ああ...いいですとも...」
アーサーさんは小屋からちょっと離れ、ハリーを手招きした。
「ハリー、手伝っておくれ」
そう言ったアーサーさんは、ポケットから丸めたマグルの札束を引っ張り出し、一枚一枚はがしはじめた。
「これはっと...10かね?あ、なるほど、数字が小さく書いてあるようだ...すると、これは5かな?」
「20ですよ」
ハリーは声を低めて訂正する。ロバーツさんが一言一句聞き漏らすまいとしているので、気が気ではない様子だ。
「ああ、そうか...どうもよくわからんな。こんな紙切れ...」
「おめえさん、外国人かね?」
ちゃんとした金額を揃えて戻って来たアーサーさんに、ロバーツさんが言った。
「外国人?」
アーサーさんは戸惑ったように繰り返す。
「金勘定が出来ねえのは、おめえさんがはじめてじゃねえ。10分ほど前にも、2人ばっかり、車のホイールキャップぐれえのでっけえ金貨で払おうとしたな」
ロバーツさんはアーサーさんをジロジロ眺めながら言った。
「ほう、そんなのが居たかね?」
気を遣いながらそう言ったアーサーさん。ロバーツさんは、釣銭を出そうと、四角い空き缶をゴソゴソ探っている。霧深いキャンプ場にまた目を向けながら、ロバーツさんが唐突に言った。