第73章 辞職
アルバスが後ろ向きに部屋を出て来て、扉を閉め、杖を取り出して、魔法で鍵を掛けようとした。慌てて飛び出したハリーとハーマイオニーに私も続く。アルバスは顔を見合わせると、長い銀色の口ひげの下に、ニッコリと笑いが広がった。
「さて?」
アルバスが静かに言う。
「やりました!シリウスは行ってしまいました。バックビークに乗って...」
ハリーが息を切らして言った。ニッコリ微笑んだアルバス。
「よくやった。さてと...」
そう言ったアルバスは、部屋の中の音に耳を澄ませる。
「よかろう。3人とも出て行ったようじゃ。中にお入り...わしが鍵を掛けよう」
私達は、扉の間をすり抜けて病室に戻った。ロン以外は誰もいない。ロンは、一番端しのベッドでまだ身動きもせず横たわっている。
背後で鍵が掛かる音がしたときには、私はベッドに潜り込み、逆転時計をローブの下に仕舞い込んだ。次の瞬間、マダム・ポンフリーが自分の事務室から出て来て、つかつかとこちらにやって来た。
「校長先生が、お帰りになったような音がしましたけど?これで私の患者さんの面倒を見させていただけるんでしょうね?」
ひどくご機嫌ななめだ。私は、目を瞑ってじっとしていることにした。それから少しすると、遠くで怒り狂う唸り声が、どこか上のほうから木霊のように聞こえて来た。
「なにかしら?」
マダム・ポンフリーが驚いて言う。怒った声が聞こえた。段々大きくなって来る。
「まったく、全員を起こすつもりなんですかね!いったい何のつもりでしょう?」
私は、じっと耳を澄ませた。声の主達が近づいてきている。
「きっと、姿くらまし術を使ったのだろう、セブルス。誰か一緒に部屋に残しておくべきだった。こんなことが漏れたら...」
「ヤツは断じて姿くらましをしたのではない!この城の中では、姿くらましも姿現わしもできないのだ!これは、断じて...何か...ポッターが絡んでいる!」
近付いて来ているセブルスが大声で言う。
「セブルス...落ち着け...ハリーは閉じ籠められている...」
バーンという音と共に、猛烈な勢いで扉が開いた。驚きで肩をびくつかせてしまったが、誰も見ていないだろう。ファッジ、セブルス、アルバスが大股で中に入って来た。アルバスだけが涼しい顔をしている。むしろ、かなり楽しんでいるかのようにさえ見えた。