第72章 逆転時計
「僕、お父さんだと思った」
ハリーは、私とハーマイオニーをチラリと見た。ハーマイオニーの口は、今度は完全に開いたままだ。ハーマイオニーは、ハリーを驚きとも哀れみともつかない目で見つめる。
「ハリー、あなたのお父さま...あの...お亡くなりになったのよ」
ハーマイオニーが静かに言った。
「わかってるよ」
急いで言ったハリー。
「お父さまの霊を見たってわけ?」
「わからない...ううん...実物があるみたいだった...」
「だったら...」
「多分、気のせいだ。だけど...僕の見たかぎりでは...お父さんみたいだった...僕、写真を持ってるんだ...」
ハーマイオニーは、ハリーが正気を失ったのではないかと心配そうに、見つめ続けている。
「馬鹿げてるって、わかってるよ」
きっぱりと言ったハリー。そして、ハリーはバックビークのほうを見た。私もつられてそちらを見る。バックビークは虫でも探しているのか、土をほじくり返している。
頭上の木の葉が、かすかに夜風にそよいだ。月が、雲の切れ間から現われては消えた。そして、ついに1時間以上経ってから。
「出て来たわ!」
ハーマイオニーが囁き、私達は立ち上がった。首を上げたバックビーク。ルーピン先生、ロン、ペティグリューが根元の穴から、窮屈そうに這い上がって出てきた。それから、気を失ったままのセブルスが、不気味に漂いながら浮かび上がって来る。
そのあとは、ハリーとハーマイオニーと私、そしてシリウスだった。全員が城に向かって歩き出す。空を見上げると、もう間もなく雲が流れ、月をあらわにするところだった。
「ハリー。じっとしていなきゃいけないのよ。誰かに見られてはいけないの。私たちにはどうにも出来ないことなんだから...」
呟くように言ったハーマイオニー。
「それじゃ、またペティグリューを逃がしてやるだけなんだ...」
ハリーは低い声で言った。
「暗闇で、どうやってネズミを探すっていうの?私たちには、どうにも出来ないことよ!私たち、シリウスを救うために時間を戻したの。他のことはいっさいやっちゃいけないの!」
ハーマイオニーが鋭く言う。
「わかったよ!」
月が、雲の陰から滑り出るように現われた。校庭の向こう側で、立ち止まるみんなの姿が見える。私達は、みんなの動きを見つめた。