第72章 逆転時計
「これで、全部ね。私たち全員、あそこにいるんだわ...さあ、あとは私たちがまた出て来るまで待つだけ...」
ハーマイオニーが静かに言う。ハーマイオニーは、バックビークの手綱の端しを一番手近の木にしっかり結び付け、乾いた土の上に腰を下ろし、膝を抱きかかえた。
「ハリー、私、わからないことがあるの...どうして、ディメンターはシリウスを捕まえられなかったのかしら?私、ディメンターがやって来るところまでは覚えてるんだけど、それから気を失ったと思う...ほんとに大勢いたわ...」
私はハーマイオニーの隣に腰かける。ハリーも腰を下ろす。そして、ハリーは自分が見たことを話した。一番近くに居たディメンターがハリーの口元に口を近付けたこと、そのとき大きな銀色の何かが、湖の向こうから疾走して来て、ディメンターを退却させたこと。説明し終わったとき、ハーマイオニーの口元はかすかに開いていた。
「でも、それ、何だったの?」
「ディメンターを追い払うものは、たった一つしか有り得ない。本物のパトローナスだ。強力な」
ハリーがそう言う。
「でも、いったい誰が?」
ハーマイオニーの疑問に、無言のハリー。
「どんな人だったか見たの?先生の一人みたいだった?」
ハーマイオニーが興味津々で聞いた。
「違う。先生じゃなかった。ユウミでもなかったし...」
「ユウミ?」
ハリーがポツリと呟くと、ハーマイオニーが不思議そうに聞き返す。
「うん、ユウミは本物のパトローナスを作れるんだ」
「本当なの、ユウミ?!」
こちらを見て驚いた顔をしたハーマイオニー。
『えぇ、本当よ』
「すごいわね!じゃあ、ハリーが見たのは誰だったのかしら。でも、本当に力のある魔法使いに違いないわね。あんなに大勢のディメンターを追い払うんですもの...パトローナスがそんなに眩く輝いていたのだったら、その人を照らしたんじゃないの?見えなかったの?」
ハリーは、ゆっくりと答える。
「ううん、僕、見たよ。でも...僕、きっと、思い込んだだけなんだ...混乱してたんだ...そのすぐあとで、気を失ってしまったし...」
「誰だと思ったの?」
「僕...」
ハリーは、言葉を呑み込んだ。何を言おうとしているかわかる私は、気持ちがわかった。自分でも信じられないだろう。