第72章 逆転時計

ハーマイオニーは青い顔を、木の陰から突き出す。

「ハリー、早く！」

アルバスが小屋の中でまだ話している。ハリーはもう一度、綱をグイッと引く。すると、バックビークは諦めたように早足になった。やっと木立のところまでハリーとバックビークが来る。

「早く！早く！」

ハーマイオニーが木の陰から飛び出して、呻くように言いながら、自分も手綱を取り、全体重を掛けてバックビークを急がせる。ハリー達は、もう視界が遮られるところまで来た。ハグリッドの小屋の裏庭はもう見えないところだ。私は、バックビークの近くにいった。

「止まって！みんなが、音を聴き付けるかも」

ハリーがハーマイオニーに囁く。ハグリッドの小屋の裏戸がバタンと開いた。私とハリーとハーマイオニー、バックビークはじっと音を立てずに佇んだ。バックビークも耳をそばだてているように見える。静かになった。そして。

「どこだ？ヤツはどこだ？」

委員会の誰かのかん高い声がした。

「ここに繋がれていたんだ！俺は見たんだ！ここだった！」

死刑執行人が怒って言う。

「これは異なこと」

どこか面白がっているような声で言ったアルバス。

「ビーキー！」

ハグリッドが声をつまらせる。シュッという音に続いて、ドサッと斧を振り下ろす音がした。死刑執行人が、癇癪を起こして斧を柵に振り下ろしたのだ。それから吼えるような声がした。そして、前のときには聞こえなかったハグリッドの言葉が、すすり泣きに混じって聞こえて来る。

「いない！いない！良かった。かわいいビーク、いなくなっちまった！きっと自分で自由になったんだ！ビーキー、賢いビーキー！」

バックビークは、ハグリッドのところに行こうとして綱を引っぱりはじめた。

『バックビーク。今あなたがあっちに行ったら、ハグリッドが困ってしまうわ』

こそっとバックビークに話しかけると、バックビークは私の方を見て大人しくなる。

『ありがとう、バックビーク』

優しくバックビークの体を撫でた。

「誰かが、綱を解いて逃がした！探さなければ。校庭や森を...」

死刑執行人が、歯噛みする。

「マクネア、バックビークが盗まれたのなら、盗人はバックビークを歩かせて連れて行くと思うかね？どうせなら、空を探すがよい...ハグリッド、お茶を一杯いただこうかの。ブランディをたっぷりでもよいの」