第72章 逆転時計
それから、ファッジの声が聞こえた。
「ハグリッド、我々は死刑執行の正式な通知を読み上げねばならん。短く済ますつもりだ。それから君とマクネアが書類にサインする。マクネア、君も聞くことになっている。それが手続きだ...」
マクネアの顔が窓から消える。今がチャンスだ。
「ここで待ってて。僕がやる」
ハリーが私とハーマイオニーに囁く。再びファッジの声が聞こえて来たとき、ハリーは木陰から飛び出し、かぼちゃ畑の柵を飛び越え、バックビークに近付いた。
「'危険生物処理委員会'は、ヒッポグリフのバックビーク、以後被告と呼ぶ。当該被告は6月6日の日没時に処刑さるべしと決定した...」
ハリーは以前に1度やったように、バックビークの荒々しいオレンジ色の目を見つめ、お辞儀する。バックビークは、うろこ状に覆われた膝を曲げていったん身体を低くし、また立ち上がった。ハリーは、バックビークを柵に縛り付けている綱を解きにかかる。
「...死刑は斬首とし、委員会の任命する執行人、ワルデン・マクネアによって執行され...」
「バックビーク、来るんだ。おいで、助けてあげるよ。そーっと...そーっと...」
ハリーが呟くように話し掛けた。
「...以下を証人とす。ハグリッド、ここに署名を...」
ハリーは全体重をかけて綱を引っ張っていたが、バックビークは前足で踏ん張っている。
「さあ、さっさと片付けましょうぞ。ハグリッド、君は中にいたほうが良くはないかの...」
ハグリッドの小屋から、委員会のメンバーのかん高い声が聞こえた。
「いんや、俺は、俺はあいつと一緒にいたい...あいつを、独りぼっちにはしたくねえ...」
小屋の中から、足音が響いて来る。
「バックビーク、動いてくれ!」
ハリーは声をひそめて促す。それから、バックビークの首にかかった綱を強く引いた。バックビークは、イライラと翼を擦り合わせながら歩きはじめる。森まで、まだ10フィートはあった。ハグリッドの小屋の裏戸から丸見えとなる場所だ。
「マクネア、ちょっと待ちなさい。君も署名せねば」
アルバスの声がして、小屋の足音が止まった。ハリーは綱を手繰り込む。バックビークは、嘴をカチカチ言わせながら、少し足を速める。
「ハリーは、何をしているのかしら。早くしないと」
隣のハーマイオニーが呟いた。