第71章 私達の秘密
「"エクスペリアームス(武器よ去れ)"!」
ハリーがペティグリューに杖を向けて叫んだ。...ルーピン先生の杖が空中に高々と舞い上がり、見えなくなる。
「動くな!」
前方に向かって走りながら叫んだハリー。しかし、間に合わない。ペティグリューはもう変身していた。だらりと伸びたロンの腕に掛かっている手錠を、ペティグリューの禿げた尻尾がシュッとかいくぐるのを私は見た。
草むらを慌てて走り去る音が聴こえた。ひと声高く吼える声と、低く唸る声とがする。私が振り返ると、狼人間が逃げ出すところだった。森に向かって走り去って行く。
「シリウス、あいつが逃げた。ペティグリューが変身した!」
大声を上げたハリー。シリウスは血を流していた。鼻づらと背に深手を負っていたのだ。しかし、ハリーの言葉に素早く立ち上がり、足音を響かせて校庭を走り去った。その足音もたちまち夜の静寂の中へと消えて行く。私とハリーとハーマイオニーは、ロンに駆け寄る。
「ペティグリューは、いったいロンに何をしたのかしら?」
ハーマイオニーが囁くように言った。ロンは目を半分あけたままで、口はダラリと開いている。生きていることは確かだ。息をしている音が聞こえる。しかし、ロンは私たちの顔がわからないようだ。
「何をされたんだ」
ハリーがすがるように周囲を見回した。シリウスもルーピン先生も、行ってしまったのだ。傍にいるのは、宙吊りになって、気を失っているセブルスだけ。
「2人を城まで連れて行って、誰かに話をしないと。行こう...」
ハリーは目に掛かった髪の毛を掻き上げ、そう言った。しかしそのとき、暗闇の中から、鋭く叫ぶ声が、苦痛を訴えるような犬の啼き声が聞こえて来た。
「シリウス」
闇を見つめて呟いたハリー。
『ハリー、ハーマイオニー行って!私がロンとスネイプ先生を見ているから!』
迷っている様子のハリーに言う。ハリーは私を見て、頷いて駆け出した。ハーマイオニーもあとに続く。私はそれを見てから、胸を押さえた。
『ふぅ...ちょっと...』
ゆっくりだったとはいえ、一切休まずに歩いたので少し苦しくなってしまったのだ。少し、休んでいれば平気だろう。
『走っても大丈夫な時と歩いたくらいで苦しくなる時があるのはなんでなのかしら...。落差が激しいわ。困るわね...』
ポツリと呟いたそのときだった。