第71章 私達の秘密
無言で、全員が歩き出した。ペティグリューは、相変わらずゼイゼイと息をし、時折ヒーヒー泣いている。前のほうで、ルーピン先生がペティグリューの胸に杖を横から突き付けながら脅すように言う。
「少しでも変な真似をしたら、ピーター」
みんな無言でひたすら校庭を歩いた。窓の明かりが徐々に大きくなってくる。セブルスは、シリウスの前を移動している。するとそのとき、雲が切れた。突然、地面にぼんやりとした影が現われる。一行は、月明かりを浴びていた。
セブルスが、ルーピン先生、ペティグリュー、ロンの一団にぶつかる。シリウスが立ちすくんだ。シリウスが片手をサッと上げて私達を制止した。ルーピン先生の黒い影のような姿を見た。その姿は、硬直している。そして、手足が震え出す。
「どうしましょう...あの薬を今夜飲んでないわ!危険よ!」
ハーマイオニ-が、息を切らして言った。
「逃げろ。逃げろ!早く!」
低い声で言ったシリウス。しかし、ハリーは逃げない。ロンが、ペティグリューとルーピン先生に繋がれたままだったのだ。ハリーが前に飛び出した。しかし、シリウスがハリーの胸に腕を回して引き寄せる。
「私に任せて...逃げるんだ!」
恐ろしい唸り声がした。ルーピン先生の頭が長く伸びる。身体も伸びた。盛り上がる背中。顔といわず手といわず、見るみる毛が生え出す。手は丸まって鉤爪が生えてきた。
クルックシャンクスの毛が逆立ち、あとずさりする。狼人間が後ろ足で立ち上がり、牙を打ち鳴らしたとき、シリウスの姿も消えた。変身したのだ。巨大な、熊のような犬が躍り出る。
狼人間が、自分を縛っていた手錠を捻じ切ったとき、犬が狼人間の首に喰らいついて後ろに引き戻し、ロンやペティグリューから遠ざけた。2匹は、牙と牙とでがっちりと噛み合い、鉤爪が互いを引き裂き合っている。私は知っていたことだが、変身する姿に驚くあまりに他のことに気づくことが出来なかった。
『やめなさい!』
ハーマイオニーの悲鳴でハッと我に返った私は、叫ぶ。ペティグリューが、ルーピン先生の落とした杖に飛び付いたのだ。包帯をした脚で不安定だったロンが転倒した。杖を出そうとしたが間に合わず、バンという音と炸裂する光。
そして、ロンは倒れたまま動かなくなった。またバンという音がして、クルックシャンクスが宙に飛び、地面にドサリと落ちる。