第70章 ヴォルデモート卿の召使い
知っているのに、止めないのだ。
「もちろん、君が伯父さんや伯母さんとこのまま一緒に暮らしたいというのなら、その気持ちはよくわかるつもりだ。しかし...まあ...考えてくれないか。私の汚名が晴れたら...もし、君が...別の家族が欲しいと思うなら...」
「えっ?あなたと暮らすの?ダーズリー一家と、別れられるの?」
そう言ったハリーは、天井から突き出している岩にいやというほど頭をぶつけた。
「もちろん、君はそんなことは望まないだろうと思ったが。よくわかるよ。ただ、もしかしたら私と、と思ってね...」
シリウスが慌てたように言う。
「とんでもない!もちろん、ダーズリーの所なんか出たいです!住む家はありますか?僕、いつ引っ越せますか?」
そう言ったハリーの声は、シリウスに負けず劣らず上わずっていた。シリウスが、振り返ってハリーを見る。
「そうしたいのかい?本気で?」
「ええ、本気です!」
シリウスのげっそりした顔が、急に笑顔になった。シリウスの本当の笑顔だ。その笑顔がもたらした変化は驚異的だった。骸骨のようなマスクの後ろに10歳若返った顔が輝いて見えるかのようだったのだ。
「あー...マーレイ?」
『え?』
シリウスが私に話しかけたため、驚く。
「君は、ユウミ・マーレイ?ルイスとレイラの娘かい?」
『そうです』
私が肯定すると、シリウスはこう言った。
「そうか。私は、君の両親を知っている。とてもよくしてもらった。実は、赤ん坊の君にも会ったことがあるんだ」
『母に、少しだけ聞きました。父と同僚で先輩、後輩だったと。私が会ったことあるのは知りませんでしたが...』
私は、嘘をつく。赤ん坊の私が知っていたら、おかしいだろう。
「無理もない、赤ん坊だったんだ」
シリウスは、その頃を懐かしむような表情になった。トンネルの出口に着くまで、もう誰も話さなかった。クルックシャンクスが最初に飛び出し、木の幹のコブを押してくれる。それから、ルーピン先生、ペティグリュー、ロンの一組が這い上がって行った。
シリウスは、まずセブルスを穴の外に送り出し、それから一歩下がって、ハリーとハーマイオニーと私を先に通す。ついに全員が外に出た。校庭はすでに真っ暗だ。明かりといえば、遠くに見える城の窓からもれる明かりだけだった。