第70章 ヴォルデモート卿の召使い
「いいだろう。ハリー、脇に退いてくれ」
ルーピン先生がそう言ったが、ハリーは躊躇う。
「縛り上げるだけだ。誓って、それだけだ」
ハリーは脇に退く。ルーピン先生の杖の先から、細い紐が噴き出すと、次の瞬間、ペティグリューは縛られ、さるぐつわを噛まされて床の上でもがいていた。
「しかし、ピーター。もし変身したら、やはり殺す。いいね、ハリー?」
シリウスも杖をペティグリューに向け、唸るように言った。ハリーは床に転がった哀れな姿を見下ろし、ペティグリューに見えるように頷く。それから、ルーピン先生がロンの折れた足に包帯で固定をした。気絶したセブルスはルーピン先生の呪文により、手首、首、膝に見えない吊り紐が取り付けられたかのように、立ち上がる。
しかし、頭部はまだグラグラと据わり心地悪そうに垂れ下がったままだったので、まるで異様な操り人形のようだ。ルーピン先生が透明マントをポケットにしまいこみ、万一のためにと手錠でペティグリューとルーピン先生とロンが繋がった。
「ユウミ、大丈夫?」
私に心配そうに問いかけたハーマイオニー。
『えぇ、大丈夫よ、ハーマイオニー。あなたは?』
「私も大丈夫よ」
私とハーマイオニーは、軽く微笑みあった。そして、私達はここから出ることになる。クルックシャンクスが先頭に立って階段を降り、そのあとをルーピン先生、ペティグリュー、ロンが、まるでムカデ競走のように繋がって降りて行く。
そのあとに続いたシリウスが、セブルスの杖を使ってセブルスを宙吊りにしていたので、不気味に宙を漂うセブルスの爪先が、階段を一段降りるたびにぶつかっていた。ハリーとハーマイオニーがそのあとに続き、私が最後だ。
「これがどういうことなのか、わかるかい?ペティグリューを引き渡すということが」
トンネルをゆっくりと進みながら、出し抜けにシリウスがハリーに話し掛けた。
「あなたが自由の身になる」
「そうだ...しかし、それだけではない...誰かに聞いたかも知れないが、私は君の名付親でもあるんだよ」
「ええ、知っています」
ハリーは頷く。
「つまり...君の両親が、私を君の後見人に決めていたのだ。もし、自分たちの身に何かあればと...」
そう言ったシリウスの声は緊張している。私は、複雑な気持ちだった。この後起こることを知っているから。