第70章 ヴォルデモート卿の召使い
「君は、わかってないんだ!シリウス、私が殺されかねなかったんだ!」
ペティグリューが哀れっぽく訴える。
「それなら、死ねば良かったんだ。友を裏切るくらいなら死ぬべきだった。我々も君のためにそうしただろう」
吼えた、シリウス。シリウスとルーピン先生が肩を並べて立ち、杖を上げた。
「おまえは、気付くべきだったな。ヴォルデモートが、おまえを殺さなければ、我々が殺すということをだ。ピーター、さらばだ」
ルーピン先生が静かに言う。ハーマイオニーが両手で顔を覆い、壁のほうを向いた。
「やめて!殺しては駄目だ。殺しちゃいけない」
ハリーが叫んで駆け出し、ペティグリューの前に立ち塞がり、杖に向かい合う。そして喘ぎながら言った。シリウスとルーピン先生は、ショックを受けたようだ。
「ハリー。このクズのせいで、君はご両親を亡くしたんだぞ。このへつらっているろくでなしは、あのとき君も死んでいたとしても、それを平然として眺めていたはずだ。聞いただろう。小汚い自分の命のほうが、君の家族全員の命より大事だったのだ」
シリウスが唸る。
「わかってる。こいつを、城まで連れて行くんです。僕たちの手でディメンターに引き渡すんだ。こいつは、アズカバンに行けばいい...殺すことだけはやめて」
そう言ったハリーは喘いでいた。
「ハリー!君は...ありがとう...こんな私に...ありがとう!」
ペテイグリューは、息を飲んだ。そして、両腕でハリーの膝を抱き締めた。
「離せ。おまえのために止めたんじゃない。僕のお父さんは、親友が殺人者になるのを望まないだろうと思っただけだ...おまえみたいな者のために...」
ハリーは汚らわしいとばかりにペティグリューの手をはねつけ、吐き棄てるように言った。誰一人動かず、物音一つ立てない。ただ、胸を押さえたペティグリューの息がゼイゼイと聞こえるだけだった。シリウスとルーピン先生は互いに顔を見合わせている。それから、二人同時に杖を下ろした。
「ハリー、君だけが決める権利がある。しかし、考えてくれ...こいつのやったことを」
「こいつは、アズカバンに行けばいいんだ。あそこにふさわしい者がいるとしたら、こいつしかいない」
シリウスの言葉に、ハリーは繰り返し言う。ペティグリューは、ハリーの陰でまだゼイゼイ言っていた。