第70章 ヴォルデモート卿の召使い
「おまえはいつも、自分の面倒を見てくれる親分にくっついているのが好きだった。そうだな?かつては、それが我々だった...私とリーマス...それに、ジェームズだった」
ペティグリューは、また顔を拭う。いまや、息も絶えだえの様子だ。
「私が、スパイなんて...正気の沙汰じゃない...決して...どうして、そんなことが言えるのか、私にはさっぱり...」
「ジェームズとリリーは、私が勧めたから、おまえを秘密の守人にしたんだ...」
そう言ったブラックは歯噛みをした。その激しさに、ペティグリューは、一歩下がる。シリウスは、目眩ましを考えたらしい。ヴォルデモートは、おまえのような弱虫の能無しが秘密の守人だとは夢にも思わないだろうと。ペティグリューは青ざめた顔で、相変わらず窓やドアのほうにチラチラと視線を走らせている。
「ルーピン先生。あの、聞いてもいいですか?」
「どうぞ、ハーマイオニー」
ハーマイオニーがおずおずと口を開くと、ルーピン先生は丁寧に答えた。
「あの...スキャバーズ...いえ、この...この人...ハリーの寮で、3年間同じ寝室にいたんです。例のあの人の手先なら、今までハリーを傷付けなかったのは、どうしてですか?」
ペティグリューは、助かったと言わんばかりに声をあげた。しかし、シリウスがすぐに答える。ペティグリューは、自分のために得になることがなければ、誰のためにも何もしないやつだと。アルバスの目と鼻の先で、力を失っているヴォルデモートのために殺人なんかしないと。
「あの...Mr.ブラック...シリウス?」
ハーマイオニーが、おずおずと声を掛けた。シリウスは、飛び上がらんばかりに驚く。こんなに丁寧に話し掛けられたのは遠い昔のことで、もう忘れてしまったというように、ハーマイオニーをじっと見つめた。
「お聞きしてもいいでしょうか。ど...どうやって、アズカバンから脱獄したのでしょう?もし闇の魔術を使ってないのなら」
ペティグリューがそうだと激しく頷く。ルーピン先生が睨んでペティグリューを黙らせた。シリウスは、ハーマイオニーに向かって、ちょっと顔をしかたが、聞かれたことを不快に思っている様子はない。シリウスは、自分でもその答えを探しているかのようだ。そして、シリウスは考えながらゆっくりと話し始めた。
「どうやったのか、自分でもわからない」