第70章 ヴォルデモート卿の召使い
「シリウスが、アズカバンを脱獄するとわかっていたと言うのか?いまだかつて、脱獄した者は誰も居ないというのに?」
ルーピン先生は、眉根を寄せた。
「こいつは、私たちの誰もが夢の中でしか叶わないような闇の力を持っている!それが無ければ、どうやってあそこから出られる?おそらく、名前を言ってはいけないあの人が、こいつに何か術を教え込んだんだ!」
ペティグリューが甲高い声が言う。すると、シリウスが笑い出した。ゾッとするような、虚ろな笑いが部屋中に響く。
「ヴォルデモートが、私に術を?」
シリウスがそう言うと、ペティグリューはシリウスに鞭打たれたかのように身を縮めた。
「どうした?懐かしいご主人様の名前を聞いて怖気づいたか?無理もないな、ピーター。昔の仲間はおまえのことをあまり快く思っていないようだ。違うか?」
「何のことやら...シリウス、君が何を言っているのやら」
ペティグリューはますます荒い息をしながらモゴモゴする。いまや汗だくで、顔が光っていた。シリウスは、12年もの間ペティグリューは昔の仲間から逃げていたと言った。ペティグリューの情報でポッター家に行ったことで滅びたヴォルデモート。そのため、裏切り者がまた寝返ったと思われ落とし前をつけさせられないように逃げるためだったと。
「リーマス、君は信じないだろう、こんな馬鹿げた...」
それでもまだしらを切るペティグリューは、腕で顔を拭い、ルーピン先生を見上げて言った。
「はっきり言って、ピーター。なぜ、無実の者が、12年もネズミの姿に身をやつして過ごしたいと思ったのかは、理解に苦しむ」
感情の起伏を示さずに言ったルーピン先生。
「無実だ。でも怖かった!ヴォルデモート支持者が、私を追っているなら、それは、大物の一人を私がアズカバンに送ったからだ...スパイのシリウス・ブラックだ!」
ペティグリューがキーキー声で言う。シリウスの顔が歪んだ。そして、突然シリウスのアニメーガス姿である熊のように大きな犬に戻ったかのように唸った。
「よくも、そんなことを。私が?ヴォルデモートのスパイ?私がいつ、自分より強く、力のある者たちのまわりをこそこそ這いずり廻ったことがある?しかし、ピーター、おまえは...おまえがスパイだということを、なぜ最初に見抜けなかったのか。迂闊だった」