第70章 ヴォルデモート卿の召使い
太った男の人が、急激に体重を失って萎びてしまったかのような感じだ。皮膚は、まるでスキャバーズの体毛と同じように薄汚れ、そして、ネズミのように鼻が尖っていた。目はとても小さく、潤んだ目をしている。何となく、ネズミ臭さが漂っていた。ハアハアと浅く、早い息づかいをしている。周囲の全員を見回し目が素早くドアのほうに走り、また元に戻った。
「やあ、ピーター。しばらくだったね」
ネズミが旧友に変身して身近に現われるのをしょっちゅう見慣れていたかのような口振りで、ルーピン先生が朗らかに声を掛けた。
「シ、シリウス...リ、リーマス...友よ...懐かしの友よ...」
ペティグリューは、甲高い声で言う。またしても、目がドアのほうに素早く走る。シリウスの杖腕が上がったが、ルーピン先生がその手首を押さえ、たしなめるような目でシリウスを見た。それから、またペティグリューに向かって、さりげない軽い声で言った。
「ジェームズとリリーが死んだ夜、何が起こったのか、いま話し合っていたんだがね、ピーター。君は、あのベッドでキーキー喚いていたから、細かいところを聞き逃したかもしれないな...」
「リーマス。君はブラックの言うことを信じたりしないだろうね...あいつは、私を殺そうとしたんだ、リーマス...」
ペティグリューが喘いで言う。不健康そうな顔から、ドッと汗が噴き出す。
「そう聞いていた。ピーター、2つ、3つ、はっきりさせておきたいことがあるんだが、君がもし...」
ルーピン先生の声は、一段と冷たいものだった。
「こいつは、また私を殺しにやって来た!こいつは、ジェームズとリリーを殺した。今度は私も殺そうとしてるんだ...リーマス、助けておくれ」
ペティグリューは、突然ブラックを指差して金切り声を上げた。人差し指が無くなっていたので、中指で差し示している。暗い底知れない目で、ペティグリューを睨み付けていたシリウスの顔が、今まで以上に骸骨のような形相になった。
「少し話の整理がつくまでは、誰も君を殺しはしない」
ルーピン先生が言う。
「整理?こいつが、私を追って来るとわかっていた!こいつが私を狙って戻って来るとわかっていた!12年も、私はこのときを待っていたんだ!」
またキョロキョロとあたりを見回し、その目が板張りした窓を確かめ、一つしかないドアをもう一度確かめる。