第68章 猫、ネズミ、犬
私は、息を整えてから前進する。雑然とした挨っぽい部屋があった。壁紙は剥がれかけ、床は染みだらけで、家具という家具はまるで誰かが打ち壊したかのように破損している。窓には、全部板が打ち付けられていた。
右側のドアが開きっ放しになっていて、薄暗い廊下に続いている。私は迷うことなく廊下へと出て、崩れ落ちそうな階段を上がる。どこもかしこも厚い挨をかぶっていたが、床だけは違う。何かが上階に引き摺り上げられた跡が、幅広い縞模様になって光ってた。
『...落ち着いて、大丈夫』
ポツリと呟き、私は前世の記憶を思い返しドアを見る。そして杖の灯りを消した。私が入ろうとしたとき、下から足音が聞こえてきた。続いて、ハーマイオニーの叫び声が。
「ここよ!私たち、上に居るわ...シリウス・ブラックよ...早く!」
私が振り向くとそこには、青白い顔のルーピン先生がいた。ルーピン先生は私を一瞥して、ここにいるようにとジェスチャーをしてからドアを勢いよく開けた。
「"エクスペリアームス(武器よ去れ)"!」
ルーピン先生の呪文を唱える声が聞こえる。ルーピン先生は、ハリー達から杖を取り上げたのだ。私はやっぱり我慢できなくなり、部屋に飛び込む。
「「「ユウミ!」」」
私の名前を呼ぶハリーとロンとハーマイオニー。私は、入り口で立ち止まった。そして、ルーピン先生が口を開く。何か感情を押し殺して震えているような、緊張した声だ。
「シリウス、あいつはどこだ?」
シリウスは、無表情だった。数秒間、シリウスはまったく動かなかった。それから、ゆっくりと手を上げて、その手は真っ直ぐにロンを指差す。ハリーは不思議そうにロンは混乱しているようだ。
「しかし、それなら...なぜ、今まで正体を現わさなかったんだ?もしかしたら...」
ルーピン先生はシリウスの心を読もうとするかのように、じっと見つめながら呟く。ルーピン先生は、急に目を見開いた。まるで、ブラックを通り越して何かを見ているかのような、他の誰にも見えないものを見ているような目だ。
「...もしかしたら、あいつがそうだったのか...もしかしたら、君はあいつと入れ替わりになったのか...私に何も言わずに?」
落ち窪んだ眼差しで、ルーピン先生を見つめ続けながら、シリウスはゆっくりと頷いた。
「ルーピン先生。いったい何が...?」