第67章 バックビークの運命
さらには、ロンに噛みつこうともする。
「スキャバーズ、僕だよ。このバカヤロー、ロンだってば」
ロンが声をひそめて言う。私達の背後で、戸が開く音がして、人の声が聞こえてきた。
「ねえ、ロン、お願いだから、行きましょう。いよいよやるんだわ!」
ハーマイオニーが、ヒソヒソ声で言う。
「ああ...スキャバーズ、じっとしてろったら...」
私達は前進する。しかし、ロンがまた立ち止まった。
「こいつを、押さえていられないんだ...スキャバーズ、黙れ、みんなに聞こえてしまうよ...」
スキャバーズは、キーキー喚き散らしていたが、その声でさえ、庭から聞こえて来る音を掻き消すことはできなかった。誰という区別も付かない男の人たちの声が混じり合い、ふと静かになる。そして、突如、シュッ、ドサッと紛れもない斧の音がした。ハーマイオニーがよろめく。
「やってしまった!し、信じられないわ...あの人たち、やってしまったんだわ!」
私とハリーに向かってハーマイオニーが小さな声で言った。透明マントの中で、私達は恐怖に立ちすくんでいた。私だけは、自分に必死に言い聞かせる。
バックビークは助かる、大丈夫。今の音は違うんだ、と。沈みゆく太陽の最後の光りが、血のような明かりを投げ掛け、地上に影を落とす。そのとき、私達の背後から荒々しく吼えるような声が聞こえて来た。
「ハグリッドだ」
ハリーが呟き、我れを忘れ引き返そうとした。しかし、私とロンとハーマイオニーがハリーの両腕を押さえる。
「戻れないよ。僕たちが会いに行ったことが知れたら、ハグリッドの立場はもっと困ったことになる」
青白い顔で言ったロン。ハーマイオニーは呼吸を乱す。
「どうして...あの人たち...こんなことが出来るなんて?本当に、どうして...こんなことが...できるっていうの?」
「行こう」
ロンは、歯が音を立てているようだった。透明マントにしっかりと隠れながらゆっくりと歩いて、城へと向かう。急速に日が陰って来た。広い校庭に出る頃には、暗闇がとっぷりと呪文のように私達を覆っていた。
「スキャバーズ、じっとしてろ」
ロンが手で胸を押さえながら、低い声で言う。狂ったようにもがくスキャバーズ。ロンが突然立ち止まり、スキャバーズを無理やりポケットにもっと深く押し込もうとした。