第66章 トレローニー先生の予言
「ユウミ・マーレイ」
聞きなれたあの霧の彼方からのような声が、頭の上から聞こえて来た。私は、銀の梯子をよじ登る。塔の天辺の部屋はいつもより一層暑くなっていた。
カーテンは閉めきられ、火は燃え盛っていて、いつものムッとするような香りがする。大きな水晶玉の前で待っているトレローニー先生の所まで、椅子やテーブルがごった返している中を進んで行く。
「こんにちは。いい子ね。この玉を、じっと見てくださらないこと...ゆっくりでいいのよ...それから、中に何が見えるか、教えてくださらない」
静かに言った先生。私は、水晶玉に覆い被さるようにしてじっと見る。しかし、何も起こらない。
「どうかしら?何か見えて?」
トレローニー先生がそれとなく促す。私は、エイミーの言葉を思い出し適当にでっちあげて話した。
「いいですわ。あなたにも占いの才能があるかもしれないわね」
私は適当にでっちあげたのにそう言われて、困ったように微笑んで部屋を出た。
「どうだった?」
『えぇ。適当にでっちあげたわ』
ロンにさっそく聞かれたが、私は肩を竦める。談話室に戻ってきた私は、ハーマイオニーと一緒に座った。それから、ロンもきた。
『ハリー、まだかしら?』
「まだみたいね」
そのとき、梟が手紙を運んできた。ハグリッドからだと思ったのは私だけじゃないらしく、二人もすぐに手紙を読む。ハグリッドの手紙は、今度は涙が滲んで濡れてなどいなかった。しかし、書きながら激しく手が震えたらしく、ほとんど字が判読できない。
'控訴に敗れた。日没に処刑だ。おまえさんたちに出来ることは何にもない。来るなよ。おまえさんたちに見せたくない。ハグリッドより'
「そんな...」
そのとき、ハリーが息を弾ませながらこちらに向かってきた。
「トレローニー先生が、今しがた僕に言ったんだ...」
しかし、私達の顔を見て、ハリーはハッと言葉を呑んだ。
「バックビークが負けた。ハグリッドが今、これを送って寄越した」
弱々しく言ったロン。
「行かなきゃ。ハグリッドが、一人で死刑執行人を待つなんて、そんなことさせられないよ」
ハリーは、ハグリッドの手紙を読み終えて即座に言った。
「でも、日没だ。絶対許可して貰えないだろうし...ハリー、特に君は...」
死んだような目付きで窓の外を見つめるロン。