第60章 守護霊の呪文
『ハリー、行きましょう』
私は立ち上がり、歩きだした。
「二人とも、死んだんだ。死んだんだ。二人の声の木霊を聞いたからって、お父さんも、お母さんも帰っては来ない。クィディッチ優勝杯が欲しいなら、しっかりするんだ」
ハリーのきっぱりと自分に言い聞かせる声が聞こえたが、私は聞こえないふりして歩き続ける。
「待って、ユウミ」
ハリーが私の隣に並び、そして二人でグリフィンドール寮に向かった。レイブンクロー対スリザリン戦は、新しい学期がはじまってから1週間目に行われた。スリザリンが勝ったが、僅差だった。
これはグリフィンドールにとっては喜ばしいことらしい。グリフィンドールがレイブンクローを破れば、グリフィンドールが2位に浮上することが出来るからだ。これは、廊下であったオリバーに熱く語られてわかったことである。
『ハリー、調子はどう?』
「うん...なんとかやってるよ」
ある晩、談話室でセブルスの'検知されることのない毒薬'の厄介なレポートをやっているハリーに問いかけた。ハリーは、クディッチの練習を週5日。それに加えて、ルーピン先生とのディメンター祓いの練習もあり大変そうだ。
私は、最初の1回以外はたまに行く程度にしている。その方がハリーが集中出来ると思ったからだ。ハリーも大変そうだが、ハーマイオニーに比べれば、ハリーのストレスはあまり表面に出てはいなかった。さすがのハーマイオニーも、膨大な負担がついにこたえはじめていたのだ。
毎晩必ず、談話室の片隅にハーマイオニーの姿があった。テーブルをいくつも占領し、教科書や、数占い表、古代ルーン語の辞書、マグルが重いものを持ち上げる時に用いる図式。それに、細かく書き込んだノートを閉じ込んだファイルを山のように広げていた。ほとんど誰とも口を利かず、邪魔されるとすぐに怒ったりしていた。
「いったい、どうやってるんだろう?」
ロンがハリーと私に向かって呟く。顔をあげた私とハリー。うず高く積まれたいまにも崩れそうな本の山に隠れて、ハーマイオニーの姿はほとんど見えなくなっていた。
「なにを?」
私は、この流れはまずいなと思った。おそらく、ロンが気にしているのはハーマイオニーがたくさん教科を取っていることだろう。私も、ハーマイオニー程ではないが同じ事をしているため、どう誤魔化すか考えなくてはと思ったのだ。