第60章 守護霊の呪文
『ありがとう、もう大丈夫よ』
私がパトローナスに声をかけると、コクりと頷き静かに消えた。
「よくやった!良く出来たよ、ハリー!立派なスタートだった!」
ルーピン先生は、座り込んでいるハリーのところへ大股で歩いていく。
「もう一回やってもいいですか?もう一度だけ?」
「いや、今はダメだ。一晩にしては十分過ぎるほどだ。さあ...」
きっぱり言ったルーピン先生。ルーピン先生は、ハニーデュークスの大きな最高級板チョコを1枚、ハリーに渡した。それから、私の方にも来て1枚渡してくれる。
「全部食べなさい。そうしないと、私がマダム・ポンフリーにお仕置きされてしまう」
ハリーは一口齧ってから、ルーピン先生に言う。
「でも、先生。ユウミは...」
『ハリー、私も一晩で出来たわけじゃないわ。むしろ、最初は何にも出なかったわ』
「そうだよ。これは、とても高度なんだ。来週、また同じ時間でいいかな?」
私に同意するように、ルーピン先生も言った。
「はい」
ハリーは返事をしてから、チョコレートを齧った。ルーピン先生はランプを消している。ディメンターが消えると、ランプは元通りに灯が点っていたのだ。
「ルーピン先生?僕の父をご存じなら、シリウス・ブラックのこともご存じなのでしょう」
ハリーは心に浮かんだのか、自分の考えをのべた。素早く振り返ったルーピン先生。
「どうして、そう思うんだね?」
そう言ったルーピン先生は、鋭い口調だ。
「別にただ、僕、父とブラックがホグワーツで友達だったってことを知ってるだけです」
ハリーの言葉を聞き、ルーピン先生の表情は和らぐ。そして、さらりと答えた。
「ああ、知っていた。知っていると思っていた、と言うべきかな。ハリー、ユウミ、もう帰ったほうがいい。だいぶ遅くなった」
私とハリーは教室を出て廊下を歩き角を曲がり、そこで寄り道をして甲冑の陰に座る。鎧の台座に腰掛け、ハリーはチョコレートの残りを食べだした。
「僕、ブラックのこと言わなければよかった」
ぽつりと呟いたハリー。おそらく、ルーピン先生がこの話題を避けているのが明らかだったため、そう思ったのだろう。私は、何も言わずに黙っていた。返事を必要としてないだろうと思ったからだ。かなりの量のチョコレートを食べたハリーだったが、疲れ果ている様子が窺える。