第60章 守護霊の呪文
ルーピン先生とチョコレートを食べているハリーがこちらを見たのを見て、私は微笑んだ。
『"エクスペクト・パトローナム(守護霊よ、来たれ)"!』
私が唱えると、杖の先から目も眩むほどまぶしい、銀色の動物が噴き出した。その動物は、私の方に来て私にすりよる。大きく目を見開いたハリーとルーピン先生。
「ト、トラ?」
「ユウミ、まさか...!」
『ハリー、私でも出来たの。ハリーなら出来るわ』
まだ驚いたままのハリーに向かって、私は笑いかけた。
「ユウミ、君、すごいよ!どうやってやったの?」
私が出来たのに驚いていたハリーは、興奮したように言う。
『ハリー。大切なのは、どの思い出を思い浮かべるかよ。そして、その思い出で頭をいっぱいにするの』
ハリーは、私の言葉に考え込む。
「ユウミ、驚いた。まさか出来るなんて。君は、本当に優秀だね」
ハリーが考えている間に、ルーピン先生はこちらに歩み寄ってきてそう言った。深く聞かれなかったことに、安堵しながらも私は笑う。
『ルーピン先生に褒められるのは、嬉しいですね』
ルーピン先生は目を見開いてから、私の頭に手を伸ばして、撫でた。それからハッとして私に謝ると、ハリーに尋ねる。
「どうだい、ハリー?」
「大丈夫です!」
気合い十分と言ったハリー。杖をしっかり握りしめた。
「じゃあ、いくよ、それ!」
ルーピン先生が5度目の箱の蓋を開ける。ディメンターが中から現れ、部屋が冷たく暗くなった。しかし、私は隣にパトローナスがいるため、先程までの感覚はない。私は、パトローナスを撫でた。
「"エクスペクト・パトローナム"!」
ハリーは声を張り上げる。
「"エクスペクト・パトローナム(守護霊よ、来たれ)"!"エクスペクト・パトローナム"!」
ディメンターが立ち止まった。そして、大きな銀色の影がハリーの杖の先から飛び出し、ディメンターとハリーのあいだに漂う。
「"リディクラス"!」
ルーピン先生が飛び出して来て叫んだ。バチンと大きな音がしてディメンターが消え、もやもやしたハリーのパトローナスも消えた。ハリーは、椅子に崩折れる。
ハリーの足は震え、一マイルも走ったかのように疲れきっている様子だ。ルーピン先生は自分の杖で、ボガートを箱に戻している。ボガートは、また銀色の球体に変わっていた。