第60章 守護霊の呪文
ハリーは、もう一度杖をしっかりと握り締め、教室の真ん中で身構えた。
「いいかい?」
ルーピン先生は、箱の蓋を掴む。ハリーが頷いたため、ルーピン先生は蓋を開けた。
「それ!」
部屋は再び氷のように冷たく、暗くなる。ディメンターが、ガラガラと息を吸い込み、滑るように進み出た。朽ちた片手がハリーのほうに伸びていく。
「"エクスペクト・パトローナム(守護霊よ来たれ)"!」
ハリーが叫ぶ。
「"エクスペクト・パトローナム(守護霊よ来たれ)"!、"エクスペクト・パト...」
すぐにルーピン先生は、ハリーに近寄った。そして、ハリーの顔を叩く。
「ハリー!ハリー...しっかり...」
「お父さんの声が聞こえた。お父さんの声ははじめて聞いた...お母さんが逃げる時間を作るために、一人でヴォルデモートと対決しようとしたんだ...」
私は、ハリーの顔に冷や汗に混じって涙が伝っていることに気づいた。しかし、気づかれたくないだろうと思った私は顔をさりげなく逸らす。
「ジェームズの声を聞いた?」
そう言ったルーピン先生の声に、不思議な響きがあった。
「ええ...でも...先生は僕の父をご存じない、そうでしょう?」
ルーピン先生を見上げて言ったハリー。
「わ...私は、実は知っている。ホグワーツでは友達だった。さあ、ハリー...今夜はこのぐらいでやめよう。この呪文は、とてつもなく高度だ...言うんじゃなかった。君にこんなことをさせてしまうなんて...」
「違います!僕、もう一度やってみます!僕の考えたことは、充分に幸せなことじゃなかったんです。きっとそうです...ちょっと待って...」
ハリーは、再び立ち上がった。そして、必死に考えている様子だ。
「いいんだね?」
ルーピン先生は、やめたほうが良いのでは、という思いをこらえているような顔をしている。
「気持ちを集中させたね?行くよ...それ!」
ルーピン先生は、3度目の箱の蓋を開けた。ディメンターが中から現われる。私は、今度は上手く行くと思った。前世の記憶が正しいのなら、3度目で上手く行っていた気がするから。
しかし、ハリーは出来なかった。そして...4度目も。ルーピン先生はもうやめようと言いたそうで、ハリーも気持ちがとても落ち込んでしまっているようだ。
『ハリー。きっとあなたなら出来るわ』