第60章 守護霊の呪文
ルーピン先生はそう言って自分の杖を取り出し、ハリーと私にも同じようにするよう促す。
「どんな力を持っているのですか?」
ハリーは不安げに言った。
「そう、呪文がうまく効けば、'パトローナス(守護霊)'が出て来る。いわば、ディメンターを祓う者の保護者だ。これが君とディメンターとのあいだで盾になってくれる」
そこで何かをイメージしている様子のハリー。ルーピン先生は、話を続ける。
「パトローナスは、一種のプラスのエネルギーなんだ。ディメンターはまさにプラスのエネルギーを貪り食らって生きる...希望、幸福、生きようとする意欲などをだ...しかし、パトローナスからは、本物の人間から感じる希望というものを感じ取ることができない。だから、ディメンターはパトローナスを傷つけることができない。ただし、ハリー。言っておかなければならないが、この呪文は君にはまだ高度過ぎるかもしれない。一人前の魔法使いでさえ、この魔法にはてこずるほどだ」
「パトローナスってどんな姿をしているのですか?」
興味深々の様子のハリー。
「それを造り出す魔法使いによって、一つ一つが違うものになる」
「どうやって、造り出すのですか?」
「呪文を唱えるんだ。何か一つ、一番幸せだった思い出を渾身の力で思いつめたときに、はじめてその呪文が効く」
ハリーは、ルーピン先生の言葉にしばらく考えてから言う。
「わかりました」
「呪文はこうだ...」
ルーピン先生は、咳払いをしてから唱える。
「"エクスペクト・パトローナム(守護霊よ来たれ)"」
小声で、呪文を繰り返すハリー。
「ハリー、幸せな想い出に神経を集中してるかい?」
「ええ...はい...」
私が何もせずにいるのを見て、ルーピン先生が不思議そうにこちらをみた。私は、ハリーが呪文を練習しているのを見てルーピン先生に近寄る。
『ハリーが終わるまで、あちらにいますね』
まだ不思議そうにしていたが、ルーピン先生は頷く。そしてハリーの杖の先から、何かが噴き出した。一条の銀色の煙のようなものだ。
「見えましたか?何か、出てきた!」
ハリーは、興奮したように言った。
「良く出来た。それじゃ...ディメンターで練習してもいいかい?」
ルーピン先生は、微笑んだ。
「はい」
杖を固く握り締め、誰もいない教室の真ん中に進み出たハリー。