第58章 忍びの地図
「まさにそうだ。ブラックは、二重スパイの役目に疲れて、'例のあの人'への支持を公然と宣言しようとしていた。ポッター夫妻の死に合わせて宣言する計画だったらしい。ところが、知っての通り、'例のあの人'は幼いハリーのために力を失った。力が失せ、とても弱体化し、逃げ去った。残されたブラックにしてみれば、まったく嫌な立場に立たされてしまったわけだ。自分が裏切り者だということを鮮明にした途端、自分の主人が力を失ってしまったんだ。逃げるほかなかった...」
「くそったれの、質の悪い裏切り者め!」
ハグリッドの罵声にバーにいた人たちの半分が静かになった。そのまま、ハグリッドはハリーのお父さまとお母さまが襲われた日のことを話しはじめた。
ハグリッドが壊れた家からハリーを救いだして、そのあとにシリウスが来たこと。真っ青になって震えていたシリウスをハグリッドが慰めたこと。シリウスは、名付け親だからハリーを育てると言ったがハグリッドはダンブルドアの言いつけがあったから断ったこと。空飛ぶオートバイを自分は使わないからとハグリッドに使えと言ったこと。
ハグリッドの話の後は、長い沈黙が続いた。それから、マダム・ロスメルタがやや満足げに言った。
「でも、逃げ切ることができなかったわけね?魔法省が次の日に追い詰めたわ!」
「ああ、魔法省だったら良かったのだが!ヤツを見つけたのは、我々ではなく、チビのピーター・ペティグリューだった...ポッター夫妻の友人の一人だが、悲しみで頭がおかしくなったのだろう、多分な。ブラックがポッターの'秘密の守人'だと知っていたペティグリューは、自らブラックを追った」
口惜しげに言ったファッジ。
「ペティグリュー...ホグワーツにいた頃は、いつも二人のあとにくっ付いていたあの肥った小さな男の子かしら?」
「ブラックとポッターのことを英雄のように崇めていた子でした。能力から言って、あの二人の仲間にはなり得なかった子です。私、あの子には時に厳しくあたりましたわ。私は今どんなに、それを...どんなに、悔いているか...」
マダム・ロスメルタの問いに、ミネルバは急に鼻かぜをひいたような声で答えた。