第58章 忍びの地図
ファッジは声を落とし、低い響きを持った声のまま話し続けた。
「だが、もちろん、'例のあの人'から身を隠すのは容易なことではない。ダンブルドアは、'忠誠の術'が一番助かる可能性があると二人にそう言ったのだ」
「どんな術ですの?」
マダム・ロスメルタが息をつめ、夢中になって尋ねた。
「恐ろしく複雑な術ですよ。一人の、生きた人の中に秘密を魔法で封じ込める。選ばれた者は、'秘密の守人'として情報を自分の中に隠す。そうすることによって情報を見つけることは不可能となる...'秘密の守人'が暴露しないかぎりはね。'秘密の守人'が口を割らないかぎり、'例のあの人'がリリーとジェームズの隠れている村を何年探そうが、二人を見つけることはできない。たとえ、二人の家の居間の窓に鼻先を押しつけるほど近付いても、見つけることはできない!」
咳払いをしてから、甲高い声で説明したフリットウィック先生。
「それじゃ、ブラックがポッター夫妻の'秘密の守人'に?」
「当然です。ジェームズ・ポッターは、ブラックだったら二人の居場所を教えるくらいなら死を選ぶだろう、それにブラックも身を隠すつもりだとダンブルドアにお伝えしたのです...それでもダンブルドアはまだ心配していらっしゃった。ダンブルドア自身が、ポッター夫妻の'秘密の守人'になろうと申し出られたことを覚えていますよ」
マダム・ロスメルタの囁きに、ミネルバが答えた。
「ダンブルドアは、ブラックを疑っていらしたの?」
マダム・ロスメルタが息を呑む。
「ダンブルドアには、誰かポッター夫妻に近い者が二人の動きを'例のあの人'に通報しているという確信があったのでした。ダンブルドアは、その少し前から、味方の誰かが裏切って'例のあの人'に相当の情報を流していると疑っていらっしゃいました」
ミネルバの声が暗いものとなる。
「それでも、ジェームズ・ポッターはブラックを使うと主張したんですの?」
「そうだ。そして、'忠誠の術'をかけてから一週間も経たないうちに...」
重苦しい声のファッジ。
「ブラックが、二人を裏切った?」
マダム・ロスメルタが囁き声で尋ねる。私は、ここまで聞きながらなんとも言えない気持ちになっていた。事実を知っていて、これを聞くのは辛いものがある。でも、まだ話は続くのだ。