第58章 忍びの地図
「マダム・ロスメルタだよ。僕が、飲み物を買って来ようか?」
ちょっと赤くなっているロン。私達は、奥の空いている小さなテーブルのほうへと進む。テーブルの背後は窓で、前には飾り付けられたクリスマス・ツリーが暖炉わきに立っていた。5分後に、ロンが大ジョッキ4本を抱えてやって来た。泡立った熱いバタービールだ。
「メリー・クリスマス!」
ロンは嬉しそうに大ジョッキを掲げ、ハリーはグイと飲んだ。私も飲むと、身体の芯から隅々まで暖まる心地だった。急に冷たい風がふく。どうやら三本の箒の入り口のドアが開いたみたいだ。
入ってきた人物を見て、ハリーはむせこんでしまった。ミネルバとフリットウィック先生が、舞い上がる雪に包まれてパブの中に入って来たのだ。すぐ後ろからハグリッドも入って来た。ハグリッドは、若緑色の山高帽に細縞のマントを羽織ったでっぷりした男の人との話に夢中になっている。その人は、コーネリウス・ファッジ。魔法省大臣だ。
とっさに、それを見たロンとハーマイオニーが同時にハリーの頭の上に手を置いて、ハリーをテーブルの下に押し込む。ハリーは椅子から滑り落ち、こぼれたバタービールを垂らしながらテーブルの下にうずくまった。先生方とファッジは、バーのほうに行き、おそらく注文をしてから、方向を変えて真っ直ぐ私達のほうへと歩いて来る。
「"モビリアーブス(木よ動け)"!」
ハーマイオニーが呟くと、傍にあったクリスマス・ツリーが、数インチ浮き上がり、横にフワフワ漂って、私達のテーブルの真ん前に軽い音を立てて着地し、4人を隠した。
先生方と大臣は、すぐ傍のテーブルの4組の椅子に座り、フーッという溜息や、やれやれと声を出す。そこにピカピカの青緑色のハイヒールを履いたマダム・ロスメルタが来た。
「ギリーウォーターのシングルは...」
「私です」
ミネルバの声だ。
「ホット蜂蜜酒、4ジョッキ分は...」
「ほい、ロスメルタ」
次はハグリッドの声が聞こえた。
「チェリー・シロッブソーダ、唐傘飾り付き...」
「ウンムムム!」
フリットウィック先生が唇を尖らせて舌鼓を打つ。
「それじゃ、大臣は紅実のラム酒ですね?」
「ありがとうよ、ロスメルタ。君にまた会えて本当に嬉しいよ。君も一杯やってくれ...こっちに来て一緒に飲まないか?」
最後は、ファッジの声だ。