第58章 忍びの地図
「あっちなんてどうだい?」
ロンが向かったのは、一番奥まったコーナーだ。そこには、異常な味のお菓子があった。私は、看板の下に立って血の味がするキャンディが入れられた容器を品定めしているロンとハーマイオニーを横目に振り返る。
思った通り、そこにはハリーの姿が。私が振り向いたことに驚いたハリーは、固まってしまう。私は驚いた表情を作ってから、にっこり笑い人差し指を口に当てた。それを見たハリーは微笑み返して、こっそりとこちらに近づいてきた。
「ウー、駄目。ハリーは、こんなもの欲しがらないわ。これって'バンパイア(吸血鬼)'用だと思う」
「それじゃ、これは?」
ロンは、'ゴキブリ豆板'の瓶をハーマイオニーの鼻先に突き付ける。
「絶対、イヤだよ」
「ハリー!どうしたの、こんなところで?ど...どうやってここに...?」
ハリーの突然の声に、危うく瓶を落としそうになったロンと歓声をあげたハーマイオニー。
「ワオ!'姿現し術'が出来るようになったんだ!」
ロンは感心して言った。
「まさか、違うよ」
否定したハリーは、声を落として周囲の6年生の誰にも聞こえないようにしながら、忍びの地図の一部始終を私達に話してくれた。
「フレッドもジョージも、何でこれまで僕にくれなかったんだ!弟じゃないか!」
ロンは気分を害したようだ。
「でも、ハリーはこのまま地図を持ってたりしないわ!マクゴナガル先生にお渡しするわよね、ハリー?」
「僕、渡さない!」
ハーマイオニーはそんな馬鹿げたことはしてはいけないと言わんばかりに言ったが、ハリーは強く否定した。
「気は確かか?こんな良いものが渡せるか?」
ロンが目を剥いてハーマイオニーを見る。
「僕がこれを渡したら、どこで手に入れたかを言わないといけなくなる!フレッドとジョージが、管理人のフィルチを騙したってことが知られてしまうことになる!」
「それじゃ、シリウス・ブラックのことはどうするの?この地図にある抜け道のどれかを使って、ブラックが城に入り込んでいるかもしれないのよ!先生方は、そのことを知らないといけないわ!」
ハーマイオニーは、警告するように言う。しかしハリーがすぐに言い返す。私はこのやりとりを黙って聞いていることにする。なぜなら、何も知らなければハーマイオニーに同意したが、私は知ってしまっているからだ。