第57章 静かな場所
冬の陽光が教室の向こう側へと沈みかけ、ルーピン先生の白髪とまだ若い顔に刻まれた皺を照らし出す。
「ディメンターは、地上を歩く生物の中で最も忌まわしい生き物の一つだ。暗く、穢れた場所にはびこり、衰退と絶望の中に栄え、平和や希望、幸福を周囲の空気から吸い取ってしまう。マグルでさえ、ディメンターの姿を見ることはできなくても、その存在は感じ取る。ディメンターに近付き過ぎると、楽しい気分も幸福な思い出も、一かけらも残さず吸い取られてしまう。可能であれば、ディメンターは相手を貧り続け、しまいにはディメンター自身と同じ状態にしてしまうことができる...邪悪な魂の抜け殻にね。心に最悪の経験だけしか残らない状態だ。そしてハリー、君の最悪の経験は酷いものだった。君のような目に遭えば、どんな人間だって箒から落ちても不思議はない。君は、決して恥に思う必要はない」
「あいつらが傍に来ると...ヴォルデモートが、僕のお母さんを殺したときの声が聞こえるんです」
ハリーは喉を詰まらせ、ルーピン先生の机を見つめながら話し出した。ルーピン先生は急に腕を伸ばし、ハリーの肩をしっかりと掴むかのような素振りをしたが、思い直したように手を引っ込める。
少しのあいだ沈黙が辺りを支配した。私は、出来るだけ自分の存在を消そうと努力していた。ルーピン先生もハリーも私のことを忘れているのではないだろうか。
「どうして、あいつらが試合に来なければならなかったんですか?」
「飢えてきてたんだ。ダンブルドア校長が、やつらを校内に入れなかったので、餌食にする人間という獲物が枯渇してしまったんだ...クィディッチ競技場に集まる大観衆という魅力に我慢しきれなかったのだろう。あの大興奮...感情の高まり...やつらにとっては、ご馳走だ」
ハリーは悔しそうに言った。それにカバンを閉じながら冷静に答えるルーピン先生。
「アズカバンは、酷いところでしょうね」
ハリーが呟くと、ルーピン先生は暗い顔で頷く。
「海のかなたの孤島に立つ要塞だ。しかし、囚人を閉じ込めておくには、周囲が海でなくても、壁が無くてもいい。一かけらの楽しさも感じることができず、みんな自分の心の中に閉じ込められているのだから。数週間も入っていればほとんどみんな気が狂う」
「でも、シリウス・ブラックは、あいつらの手を逃れました。脱獄を...」