第56章 恐怖の敗北
次の日、ゴロゴロという雷鳴が響き、城の壁を打つほどの風がふき、激しい雨が降っていた。しかし、クィディッチは中止になることはない。
こんな天気ではあったが、大人気のクィディッチのことだったので、学校中の者がいつものように試合を見に外へと出ていく。荒れ狂う風に向かってみんな頭を低く下げ、クィディッチ競技場までの芝生を駆け抜けるが、傘は途中で手からもぎ取られるように吹き飛ばされそうになっていた。
「ねぇ、本当に大丈夫なの?!」
『大丈夫よ!』
叫ばないと隣のクレアの声も聞こえない中、私はしっかり返事をした。クレアは、この嵐で私が体調を崩すのではないかと心配しているのだ。しばらくして、グラウンドに選手が出てきたが、風のもの凄さによろめいていた。耳をつんざく雷鳴がまたしても鳴り渡り、観衆が声援していても、その音は掻き消されている。
「もう、どうなってるの!」
ミアが声をあげた。マダム・フーチが、ホイッスルを吹いた鋭い音が聴こえてくる。試合開始だ。私は傘をさして、マントを頭から被っていたが5分もすると、びしょ濡れになり凍えるような寒さになった。
傘が意味がないことがわかった私は早々に傘を閉じたが、隣のクレアに非難するような目でみられて、クレアがさした傘に二人で入っている。いったい試合がどうなっているのかもわからない状態で、解説者の声も風に遮られて聞こえない。
「どうなってるのかしら?!」
『わからないわ!』
ミアの声に答えを返す。まるで、夜が足を早めてやって来たかのように、空はますます暗くなってきた。最初の稲妻が光ったとき、マダム・フーチのホイッスルが鳴り響いた。
「タイム・アウトかしらね?!」
「そうだね〜」
どしゃ降りの雨が降り注ぐ。
「俺達が、50点のリードだ!!」
近くにいたグリフィンドール生の叫び声により、私達グリフィンドールが50点リードしていることはわかった。試合が再開した。程なくして、また雷がバリバリッと鳴り、樹木のように枝分かれした稲妻が走る。
突然、奇妙なことが起こった。競技場に、サーッと気味の悪い沈黙が流れ、風は相変わらず激しかったが、唸りを忘れてしまったかのようだ。誰かが音のスイッチを切ったかのように、私は耳が急に聞こえなくなったように感じた。すると、私達を恐ろしい感覚が冷たい波となって襲い、心の中に押し寄せて来た。