第56章 恐怖の敗北
セブルスは顔をロンにくっつけるようにして、柔らかくそう言った。そのことがあってからは、物音を立てる者は誰もいなくなった。みんなが、机に座って教科書から狼人間に関して写し書きをしていると、セブルスは机のあいだを行ったり来たりして、ルーピン先生が何を教えていたのかを調べて回った。
「実に下手な説明だ...これは間違いだ。河童はむしろ蒙古によく見られる...ルーピン先生は、これで10点満点で8点も?我輩なら3点もやれん...」
そこで私は、すっと手をあげた。
「なにかね、Ms.マーレイ」
教室中の視線が私に向くのを感じる。クレアやミア、エイミーは心配そうな顔でこちらを見ていた。
『気分が悪いです。医務室に行かせてください』
私は、表情も変えずにそう言い放つ。セブルスのルーピン先生への批判を聞きたくなかった。ルーピン先生のことが好きで、セブルスのことも好きだからだ。狼人間のこともこれ以上勉強したくなかった。狼人間のことは、3年生になる前に勉強してしまっていたのだ。
私はこれ以上この空間にいると、余計なことを言ってしまいそうになる自分を抑えられそうになかった。みんなが我慢しているのに、申し訳ない気持ちもあったが。セブルスはこちらをじっと見ている。みんなは、どうなるのかハラハラしている様子だ。
「...よかろう。行きたまえ」
『ありがとうございます』
私は軽く礼をして、荷物をまとめ教室を出た。医務室には行けない。具合が悪いわけではないからだ。どうしようか迷っている私に声がかかった。
「ユウミ...?」
振り向いた先にいたのは、セドリックだ。
『セドリック、どうしたの?』
「僕の台詞だよ。この時間は、授業じゃなかった?」
私は自分が、セドリックとの勉強会のときに話したのを思い出した。
『えぇ...そうね。授業だわ。少し、抜けてきたの』
セドリックは少し私の顔を見てから、優しく笑って私の手をひく。セドリックに連れてこられたのは、空き教室だった。そのまま二人で入り、セドリックは私を適当な椅子に腰掛けさせてから自分も腰掛けた。
「なにかあったかい?元気がないように見えるけど...」
『そうね、少し。どちらも好きなの。だからあんなこと言ってるの聞きたくなくて。みんな我慢しているのに、抜け出してきちゃったの。自分が情けないわ』