第56章 恐怖の敗北
「遅れてすみません。ルーピン先生、僕...」
「授業は10分前にはじまったぞ、ポッター。グリフィンドールは10点減点とする。座りたまえ」
教壇の机から顔を上げたのは、ルーピン先生ではなくセブルスだ。そのセブルスはそう言った。しかし、ハリーは動かなかった。
「ルーピン先生は?」
「今日は気分が悪く、教えられないとのことだ。座れと言ったはずだが?」
セブルスの口元に、歪んだ笑いが浮かんだ。それでもハリーは動かない。
「どうなさったのですか?」
セブルスはギラリと暗い目を光らせる。
「命に別状はない。グリフィンドール、さらに5点減点。もう一度我輩に'座れ'と言わせたら、50点減点する」
別状があれば良いのにとでも言いたげな様子のセブルス。ハリーは、ゆっくりと歩いて行って、自分の席に腰を降ろした。セブルスは教室を見回した。
「ポッターによって中断された話しの続きだが、ルーピン先生はこれまでどのような内容を教えていたのか、まったく記録を残していないのだ...」
「先生。これまでやったのは、'ボガート(まね妖怪)'、'レッド・キャップ(赤帽鬼)'、'カッパ(河童)'、'グリンディロー(水魔)'です。これからやる予定だったのは...」
ハーマイオニーが一気に答える。
「黙りなさい。教えて欲しいと言ったわけではない。我輩はただ、ルーピン先生のだらしなさを指摘しただけだ」
冷たく言ったセブルス。
「ルーピン先生は、これまでの'闇の魔法に対する防衛術'の先生の中で一番よい先生です」
ディーンの勇敢な発言を、教室中がざわめいて支持した。セブルスの顔は、一層威嚇的になる。
「そんなことで満足しているということだ。ルーピン先生は、諸君に対して著しく厳しさに欠ける...レッド・キャップやグリンディローなど、1年生でもできることだろう。我々が今日学ぶのは...人狼である」
セブルスは教科書の一番後ろまでぺージをめくった。そこなら生徒はまだ習っていないと知っているに違いなかった。私は、自分の手をぎゅっと握る。自分の気持ちを抑えるためだ。
「でも、先生。まだ、狼人間までやる予定ではありません。これからやる予定なのは、'ヒンキーパンク'で...」
我慢出来ずに発言したハーマイオニー。セブルスは、恐ろしく静かな声で言った。