第55章 太った婦人の逃走
そして、とてつもなく複雑な合言葉をひねり出すのだ。さらに、少なくとも1日2回は合言葉を変えてしまう。
「あの人、気が狂ってるよ。かわりの人はいないの?」
シェーマスが怒ってパーシーに訴えた。しかし、パーシーの答えはこうだ。
「どの絵も、この仕事を嫌ったんでね。太った婦人にあんなことがあったからみんな怖がって、名乗り出る勇気があったのはカドガン卿だけだったんだ」
ハリーはカドガン卿を気にするどころではない。いまや、ハリーは多くの目に監視されてた。先生方は、何かと理由を付けてはハリーと一緒に廊下を歩くようになり、パーシーはハリーの行く所、どこにでもピッタリついていっていた。まるで、ふん反り返った番犬のようだ。
パーシーに関しては、モリーさん言い付けなのかもしれない。きわめつけは、ミネルバだ。ハリーが夕刻にクィディッチの練習をすることはあまり好ましいことではないという考えだったらしい。これは、マダム・フーチに練習の監督をしてもらうことでどうにかなったみたいだが。
『ねぇ、トム。いる?』
部屋に一人でいた私は猫のぬいぐるみを手に持って話しかけた。
「どうしたんだい?」
すると、すぐに実体化したトムが現れる。
『あら、今日はいたのね。最近、何をしているの?疲れているように見えるし、全然出てこないじゃない?あのときは気にしなかったけど、ダイアゴン横丁にもついてこなかったわ』
私がこう言ったのには、理由がある。トムは、先ほどいった通り、話しかけても返事がなかったりということがこの頃多々あった。それに実体化もしていない。だから、魔力はそんなに使っていないはずなのに疲れているように見えたのだ。そのため気になって問いかけた。
「あー...もう少し、待ってくれるかい?もう少しなんだ。ユウミが悲しむようなことはしていないよ」
トムは困った顔をしてから、私の頭を撫でてそう言う。
『...わかったわ』
私のトムに対する疑いはもうないにも等しかったので、隠されていることに不満を感じながらも頷いた。それをみたトムは優しく微笑んだ。