第55章 太った婦人の逃走
アルバスは背中を向けていたが、パーシーの全神経を集中させた顔とセブルスの怒ったような横顔が見えた。
「校長、先日の我々の会話を覚えておいででしょうな。確か...あー...学期がはじまったときのことですが?」
セブルスはほとんど唇を動かさずに話している。まるでパーシーを会話から閉め出そうとしているかのようだ。
「いかにも」
アルバスが答える。その言い方には、警告めいた響きがあった。
「どうも...内部の者の手引き無しには、ブラックが本校に入ることは、ほとんど不可能かと。我輩は校長が指示されたときに、確かに忠告申し上げました...」
セブルスは、ルーピン先生のことを言っているのだろう。
「この城の、内部の者がブラックの手引きをしたとは、わしは考えておらん」
アルバスの言い方には、セブルスは答えなくてもよろしいという、きっぱりとした調子があった。アルバスは言葉を続ける。
「わしは、ディメンターたちに会いに行かねばならん。捜索が終わったら、知らせると言ってあるのでな」
「校長、ディメンターは手伝おうとは言わなかったのですか?」
「おお、言ったとも。だが、わしが校長職にある限り、ディメンターにはこの城の境界線は跨せん」
パーシーの問いに、アルバスは冷ややかに答えた。パーシーは、少し恥じ入った様子だ。アルバスは、足早にそっと大広間を出て行く。セブルスはその場にたたずみ、憤懣やる方ない表情でアルバスを見送っていたが、やがて自分も部屋を出て行った。私がクレア達を見ると、もう寝息をたてている。
それから数日のあいだ、学校中はシリウス・ブラックの話でもちきりになった。どうやって城に入り込んだのか、という話がどんどん大きくなって、手が付けられなくなって行った。ハッフルパフのハンナ・アボットは、薬草学の時間中ずっと、話を聞いてくれる人に対して、ブラックは花の咲く生垣用の樹木に変身できるのだと喋りまくっていた。
「もう、本当に嫌だわ!」
「私も〜困ったものだよ〜」
声をあげたのはミアで、同意したのはエイミーだ。しかし、これにはグリフィンドール生みんなが思っていることだろう。
というのも、切り刻まれた太った婦人の肖像画は壁から取り外され、かわりにずんぐりした灰色のポニーに跨ったカドガン卿の肖像画が架けられたのだ。このカドガン卿は、誰かれかまわず決闘を挑む。
