第55章 太った婦人の逃走
アルバスは、大広間から出て行こうとしたが、ふと立ち止まった。
「おお、そうじゃ。必要なものがあったのう...」
さりげなく杖を振ると、長いテーブルが全部大広間の片隅に飛んで行き、きちんと壁を背にして並んだ。杖をもう一振りすると、何百個ものふかふかした紫色の寝袋が現われて、床いっぱいに敷きつめられた。
「ぐっすりおやすみ」
大広間を出て行くときに、アルバスが声を掛けた。たちまち、大広間中がガヤガヤうるさくなる。グリフィンドール生が他の寮生に事件の話をはじめたからだ。
「みんな寝袋に入るように!さあ、さあ、お喋りはやめたまえ!消灯まであと10分!」
パーシーが大声で叫ぶ。
「行こう〜」
エイミーが私達に呼び掛け、それぞれ寝袋を掴んで引きずっていく。
「ブラックはここに侵入したってことよね?怖いわ」
「でも、運が良かったわ。今夜だけはみんな寮塔にいなかったんだもの」
クレアに向かってミアが言った。そこで話を中断して私達は、寝袋にそのまま潜り込む。周囲では、みんなも同じことを話し合っていた。
「いったい、どうやって入り込んだんだろう?」
「'姿現しの術'を心得てたんだと思うな。ほら、どこからともなく突然現われるアレさ」
ちょっと離れたところにいたレイブンクロー生はそう言う。
「変装してたんだ、きっと」
ハッフルパフの5年生はそう推測し、ディーンはこう言った。
「飛んで来たのかも知れないぞ」
「まったく。'ホグワーツの歴史'を読もうと思ったことがあるのは、私一人だけだっていうの?」
ハーマイオニーがハリーとロンに言った声が聞こえてくる。
「多分そうだろ。どうして?」
「それはね、この城を護っているのは城壁だけじゃないってことなの。こっそり入り込めないように、ありとあらゆる呪文がかけられているのよ。ここでは、姿現しの術は使えないのよ。それに、ディメンターの裏をかくような変装があったら拝見したいものだわ。校庭の入口は、一つ残らずディメンターが見張ってるのよ。空を飛んで来たって見つかったはずだわ。その上、秘密の抜け道はフィルチ管理人が全部知ってるから、そこもディメンターが見逃してはいないはずよ...」
「本当なの?姿現しって使えないの?」
ロンの問いに答えるハーマイオニーの声を、私と同じく聞いていたクレアが私に問いかけた。