第55章 太った婦人の逃走
絵のかなりの部分が切り取られていた。アルバスは、無残な姿の肖像画を一目見るなり、暗い深刻な目で振り返る。ミネルバ、ルーピン先生、セブルスが、アルバスのほうに駆け付けて来るところだった。
「婦人を探さなければならん。マクゴナガル先生。すぐにフィルチ管理人のところに行って、城中の絵の中を探すよう言ってくださらんか」
「見つかったらお慰み!」
アルバスがそう言ったとき、甲高いしわがれた声がした。ピーブズだった。みんなの頭上をヒョコヒョコ漂いながら、大惨事や心配事が嬉しくてたまらないといった様子だ。
「ピーブズ、どういうことかね?」
アルバスが静かに言うと、ピーブズはニヤニヤ笑いをちょっと引っ込める。さすがのピーブズも、アルバスをからかう勇気はなかったようだ。おもねるような話し方をしたが、いつもの甲高い声だった。
「校長閣下、恥じているのですよ。見られたくなかったのですよ。彼女はズタズタでしたよ。5階の風景画の中を走って行くのを見ました。木にぶつからないようにしながら走って行きました。ひどく泣き叫びながらね。おかわいそうに」
嬉しそうに言ってから、最後の一言を白々しくも言い添えた。
「婦人は、誰がやったか話したかね?」
アルバスが静かに問う。
「ええ、確かに。校長閣下」
ピーブズは、大きな爆弾を両腕に抱きかかえているかのような苛立った言い方をした。
「そいつは、婦人が入れてやらないんで酷く怒っていましたねえ。あいつは、癇癪持ちだねえ。あのシリウス・ブラックは」
くるりと宙返りし、自分の脚のあいだからアルバスに向かってニヤニヤしたピーブズ。アルバスはグリフィンドール生全員に大広間に戻るように言い渡す。10分後に、ハッフルパフ、レイブンクロー、スリザリンの寮生も、みんな困惑した表情で、全員大広間に集まって来た。
「先生たち全員で、城の中を隈なく捜索せねばならん」
ミネルバとフリットウィック先生が、大広間の扉という扉を全部閉め切っている間、アルバスがそう告げた。そして、さらにこう言う。
「ということは気の毒じゃが、みんな今夜はここに泊まることになる。みんなの安全のためじゃ。監督生は大広間の入口の見張りに立ってもらおう。首席の二人に、ここの指揮を任せようぞ。何か不審なことがあれば、直ちにわしに知らせるように。ゴーストを、わしへの伝令に使うがよい」