第55章 太った婦人の逃走
私達がホグズミードから帰ってきたのは、夕暮れどきだった。寮の部屋へといって荷物をおいて、宴会のために寮から出る。玄関ホールを横切り、大広間へと向かう。大広間には、何百ものくり抜きかぼちゃに蝋燭が灯り、生きた蝙蝠が群がり飛んでいた。
燃えるようなオレンジ色の吹流しが、荒れ模様の空を模した天井の下で何本も、鮮やかな海ヘビのようにクネクネと泳いでいるようだ。飾りもさることながら、食事も素晴らしいものだった。私達4人とも、おかわりをしたくらいだ。
『おいしかったわね。ちょっと食べすぎちゃったかしら』
「私もよ」
クレアと微笑み合う。宴の締め括りは、ホグワーツのゴーストによる余興だった。壁やテーブルから姿を現わして、編隊を組んで空中滑走する。グリフィンドールの寮つきゴースト、'首なしニック'は、首を切り損なった場面を再現した。
「ポッター、ディメンターがよろしくってさ!」
私が大広間を出るとき、ドラコが人混みの中から叫んだ声が聞こえてきた。私は軽く溜め息をつく。その溜め息が聞こえたのか、隣のクレアが苦笑いをした。他のグリフィンドール生の後ろについて、いつもの通路を塔ヘと向かう。しかし、太った婦人の肖像画につながる廊下まで来てみると、生徒たちで混雑している。
「どうしたのかしら?」
「なんだろうね〜」
ミアとエイミーの会話を聞きながら、私はハッとする。そうだ、シリウスだ。
「通してくれ、さあ。何をもたもたしてるんだ?全員合言葉を忘れたわけじゃないだろう...ちょっと通してくれ。僕は首席だ...」
パーシーの声がした。人波を掻き分けて、重要なことに立ち向かうかのようにして歩いて来ている。サーッと沈黙が流れた。前のほうから、冷気が廊下に沿って広がるようだ。
「誰か、ダンブルドア校長を呼んで。急いで」
パーシーが、突然鋭く叫ぶ声がした。ざわざわと頭が動き、後列の生徒は爪先立ちになる。次の瞬間、アルバスがそこに立っていた。肖像画のほうに向かって歩いて行く。生徒が押し合いへし合いして道を空ける。ハリー達が、何が問題なのかよく見ようと、近くまで行くのを見て私も後に続く。
「ああ、何てこと......」
ハーマイオニーが絶叫してハリーの腕を掴んだ。太った婦人は肖像画から消え去り、絵は滅多切りにされて、キャンバスの切れ端が床に散らばっていた。