第53章 まね妖怪
「心配しなくていい」
ルーピン先生が静かに言ったが、何人かが驚いて飛び退いた。
「中に、'ボガート(まね妖怪)'が入ってるんだ」
続いたルーピン先生の言葉に、それなら用心しなくてはならないことなんじゃないだろうか、とほとんどの生徒が思ったようだ。顔に出ている。ネビルは、恐怖そのものの顔つきでルーピン先生を見た。シェーマスは、箪笥の取っ手がガタガタ音を立てはじめたのを不安そうに見つめている。
「'ボガート(まね妖怪)'は、暗くて狭いところを好む。洋箪笥、ベッドの下の隙間、流しの下の食器棚など...私は一度、大きな柱時計の中に潜んでいるやつに出会ったことがある。ここにいるのは、昨日の午後に入り込んだやつで、3年生の実習に使いたいから、そのまま放っておいていただきたいと、校長先生にお願いしたものです。それでは、最初の問題です。'ボガート'とは何のことかわかるかな?」
ルーピン先生の問いに手をあげたのは、もちろんハーマイオニーだ。
「'シェイプ・シフター(形態模写妖怪)'です。私たちが一番怖いと思うのはこれだと判断すると、それに姿を変えることができます」
「私でも、そんなに上手くは説明できなかったろう」
ルーピン先生の言葉で、ハーマイオニーは頬を染めた。
「だから、中の暗がりに座り込んでいるボガートは、まだ何の姿にもなっていない。箪笥の戸の外にいる誰かが、何を怖がるのかをまだ知らないからだ。ボガートが、一人ぼっちのときにどんな姿をしているのか、誰も知らない。しかし、私が外に出してやると、たちまちそれぞれが一番怖いと思っているものに姿を変えるはずだ。ということは、つまり、はじめっから私たちのほうがボガートより大変有利な立場にあることになる。ハリー、何故だかわかるかな?」
「えーと......僕たち、人数がたくさんいるので、どんな姿に変身すればいいかわからない?」
「その通り」
ハリーは隣りにいるハーマイオニーが手を高く挙げ、爪先立ちでひょこひょこ跳び上がっているのを見て気が引けようだ。しかし、それでもハリーは答えた。ハリーが正解すると、ハーマイオニーがちょっぴりがっかりしたように手を下ろす。
「怖いわね」
「そうね。一番怖いものに変身するんだもの」
「大丈夫だよ〜」
横でこそこそ話しているクレア達の会話が耳に入ってきた。