第53章 まね妖怪
私達は、闇の魔法に対する防衛術の最初の授業を受けるために教室へとやってきた。
「あら、まだ先生いらっしゃってないわね」
『座りましょう?』
しかし、まだルーピン先生は来ていない。そのため、クレア達と席につき教科書と羽ペン、羊皮紙を取り出しておしゃべりをしていた。みんなが席についてしばらくして、やっとルーピン先生はやってきた。
ルーピン先生は暖昧に微笑み、くたびれた古いカバンを先生用の机に置く。相変わらずみすぼらしく見えたが、列車で最初に見たときよりは健康そうに見える。
「やあ、みんな。教科書は、カバンに戻して貰おうかな。今日は、実地練習をすることにしよう。杖だけあればいい」
私はルーピン先生の指示通りに教科書を仕舞う中、何人かの生徒が微妙な表情で顔を見合わせたのを見た。今までこの授業で実地訓練など受けたことがないからだろう。もちろん、私は前任の先生がピクシーを持ち込んで教室に解き放ったことは1回とは数えない。
「よし、それじゃ...私について来なさい」
ルーピン先生はみんなの準備ができると声を掛けた。なんだろう、でも面白そうだと、みんなが立ち上がってルーピン先生に従い、教室を出て行く。先生は、誰も居ない廊下を通り、角を曲がった。
途端に、最初に目に入ったのがポルターガイストのピーブズだった。空中で逆さまになって、手近の鍵穴にチューインガムを詰め込んでいる。ピーブズは、ルーピン先生に気づくと、くるりと丸まった爪先をくねくねと動かし、急に歌い出した。
「ルーニー(間抜け)、ルーピー(頭のおかしい)、ルーピン...ルーニー、ルーピー、ルーピン。ルーニー、ルーピー、ルーピン...」
私はピーブズに文句を言いたいのを抑える。ここでルーピン先生が素晴らしい先生だということがわかるのだ。みんなの視線がルーピン先生にいくなか、先生は相変わらずに微笑んでいた。
「ピーブズ、私なら鍵穴からガムを剥がしておくけどね。フィルチさんが、箒を取りに入れなくなるじゃないか」
先生は快活に言った。しかし、ピーブズはルーピン先生の言うことを聞くどころか、舌を突き出してあかんべーをする。ルーピン先生は小さく溜息をつき、杖を取り出した。
「この簡単な呪文は役に立つよ...よく見ておきなさい」
先生は、肩越しにみんなの方に振り返りそう言った。そして、杖を肩の高さに構える。