第52章 トレバー
「お前の腕はどこも悪くないんだ」
ロンは歯を喰いしばってドラコに言う。それを聞いたドラコはニヤリとした。
「ウィーズリー、スネイプ先生がおっしゃったことが聞こえただろう。根を刻めよ」
私はそこまで聞いてため息をつく。
『ドラコ、かして。私がやるわ。あなたは腕が使えないみたいだから』
「いや...」
ドラコは言葉を濁した。それを見たハリーとロンが顔を見合わせてニヤリとする。
「マーレイ、君がやる必要はない。ウィーズリーにやらせたまえ」
私達の会話を聞いたのかセブルスがこちらに歩み寄ってきて、そう言った。
『でもスネイプ先生、ロンより私の方が魔法薬学は得意です』
「君は怪我をしている」
間髪いれずに返すセブルス。私は言葉をつまらせてしまう。なぜなら怪我は治っていると言っても、この腕では説得力がないからだ。仕方なそうな顔をしたロンがドラコの根を取ろうとしたとき、隣から声が聞こえてきた。
「...私がやります」
クレアだった。セブルスもそれ以上は何も言わず、ドラコの根は、クレアによって刻まれた。そのあとの、萎び無花果の皮を剥いたのもクレアだ。
『クレア、ありがとう』
小声でクレアに囁くと、優しく笑みを返してくれた。
「君たち、ご友人のハグリッドを近ごろ見かけたかい?」
ドラコが低い声で質問する。私はもうほうっておくことにした。ハリーとロンには申し訳ないが、腕をつっているためやりにくいのは確かなため薬を作るのにいつもより時間がかかるのだ。
「君の知ったことじゃない」
耳だけはすましていると、ロンがぶっきらぼうにそう言った。
「気の毒に、先生でいられるのも、もう長いことじゃないだろうな。父上は、僕の怪我のことを快く思っていらっしゃらないし...」
「いい気になるなよ、マルフォイ。そうじゃないと本当に怪我させてやる」
悲しむ振りが見えみえの口調で言ったドラコに、ロンが言い返す。
「父上は、学校の理事会に訴えた。それに、魔法省にも。父上は力があるんだ。わかってるよねえ。それに、こんなに長引く傷だし...。僕の腕、果たして元通りになるんだろうか?」
わざと大きなため息をついてみせたドラコ。
「そうか、それでそんな振りをしているんだろう。ハグリッドを辞めさせようとして!」
ハリーの怒りに震える声が聞こえてきた。