第51章 鋭い爪
ハグリッドは大声でそう言ってから鎖を1本ほどき、灰色のヒッポグリフを群れから引き離し、革の首輸を外した。クラス全員が息を止めているかのようだ。私は大丈夫なことを知っているため、落ち着いてハリーを見つめる。
「さあ、落ち着け、ハリー。目を逸らすなよ。なるべく瞬きするな...。ヒッポグリフは、目をしょぼつかせるやつを信用せんからな...」
ハグリッドは静かに言った。バックビークは、巨大な尖った頭をハリーのほうに向け、猛々しいオレンジ色の目の片方だけでハリーを睨んでいる。
「そうだ。ハリー、それでええ...それ、お辞儀だ」
ハリーが軽くお辞儀をした。ヒッポグリフは傲慢にハリーを見据えて動かない。
「あー。よーし...さがって、ハリー。ゆっくりだ...」
心配そうな声を出したハグリッド。しかしそのとき、突然ヒッポグリフが、うろこに覆われた前脚を折り、どう見てもお辞儀だと思われる格好をした。
「やったぞ、ハリー!よーし...触ってもええぞ!嘴を撫でてやれ、ほれ!」
ハリーが何度か嘴を撫でると、ヒッポグリフはそれを楽しむかのように目を閉じる。クラス全員が拍手をした。
「よーし、そんじゃ、ハリー、こいつはおまえさんを背中に乗せてくれると思うぞ」
ハリーは予想外というような表情を浮かべたが、ハグリッドの注意を聞きながらバックビークの背中に飛び乗る。ハグリッドが掛け声と共にヒッポグリフの尻を叩くと、羽を広げて飛翔した。
「よーく出来た、ハリー!」
ハグリッドが大声を出すと、ほとんど全員が歓声を上げる。そして、ハリーの成功に励まされた他の生徒も、こわごわ放牧場へと入っていく。
『私達も行きましょう?』
クレアとエイミーに声をかけて3人で、漆黒のヒッポグリフの近くに来た。
『誰から行く?』
私は相談しようとクレアとエイミーを振り返る。そのとき、クレアとエイミーが驚いたような恐怖を感じたような表情を浮かべた。
『どうした...』
最後まで言葉は続かなかった。何かが私の背中をツンツンとつついたからだ。不思議に思いながら振り返ると、そこには漆黒のヒッポグリフがいた。驚いたものの、なんとか冷静さを保つ。
『どうしたの?』
そのヒッポグリフは、私の前に頭を差し出した。どうしたらいいかわからず戸惑っていると、ヒッポグリフは今度は私の腕らへんを優しくつつく。