第50章 茶の葉
「棍棒...攻撃。おや、まあ、これは幸せなカップではありませんわね...」
「僕、それは山高帽だと思ったけど」
ロンがおずおずと言った。しかし、先生は何も言わずにカップを見ている。
「髑髏...行く手に危険が。まあ、あなた...」
みんながその場に立ちすくみ、じっとトレローニー先生を見つめる中で、先生は最後にもう一度カップを回す。そしてハッと息を呑み、悲鳴を上げた。
またしても、カチャンと陶磁器の割れる音が教室に響く。ネビルが2個目のカップを割ったようだ。トレローニー先生は空いていた肘掛椅子に身体を沈め、飾り立てた手を胸に当て、目を閉じていた。
「おお...可哀想な子...いいえ...言わないほうがよろしいわ...ええ......お聞きにならないでちょうだい...」
「先生、どういうことですか?」
ディーン・トーマスがすぐさま言った。みんな立ち上がり、ゆっくりとハリーとロンのテーブルの周囲に集まる。そしてハリーのカップをよく見ようと、トレローニー先生の座っている椅子に近付いた。
「まあ、あなた。あなたには、'グリム'が取り憑いています」
トレローニー先生の巨大な目が、芝居がかって見開かれる。
「何がですって?」
ハリーは、わかっていないようだ。それはハリーだけではないみたいで、ディーン・トーマスはハリーに向かって肩をすくめて見せて、ラベンダー・ブラウンは、訳が分からないという表情をしている。しかし、他のほとんどの生徒は、恐怖のあまり手で口を覆っていた。
「'グリム'、あなた、死神犬ですよ!墓場に取り憑く巨大な亡霊犬です!可哀想な子。これは...不吉な予兆...大凶の前兆...死の予告です!」
そう言ったトレローニー先生は、ハリーに通じなかったということがショックだったようだ。ラベンダー・ブラウンも、今度は口を両手で押さえた。みんながハリーを見る。いや、一人だけは違った。ハーマイオニーだけは、立ち上がってトレローニー先生の椅子の後ろに廻ったのだ。
「死神犬には見えないと思うわ」
ハーマイオニーが容赦なく言うと、トレローニー先生は、嫌悪感をつのらせた表情でハーマイオニーをジロリと品定めする。
「こんなことを言ってごめんあそばせ。あなたにはほとんどオーラが感じられませんのよ。未来の響きへの感受性というものがほとんどございませんわ」