第50章 茶の葉
ランプは、ほとんどが暗赤色のスカーフで覆われている。
「あっつ〜」
私の後から上ってきたエイミーがそう言った。確かに息苦しいほどの暑さだ。暖炉の上にはいろいろなものがゴチャゴチャ置かれ、大きな銅のヤカンが火に掛けられ、その火から気分が悪くなるほどの濃厚な香りが漂っていた。
「先生は、どこだい?」
ロンのそんな声が聞こえてくる。そのとき暗がりの中から、突然声がした。霧の彼方から聞こてくるような、か細い声だ。
「ようこそ。この現世で、みなさまにお目にかかれて嬉しゅうございますわ」
トレローニー先生だ。トレローニー先生は、暖炉の明かりの中に進み出る。みんなの目に映ったのは、ひょろりと痩せた女性だった。大きなメガネを掛けて、そのレンズが先生の目を実物より数倍も大きく見せている。そして、スパンコールで飾った透き通るショールをゆったりと纏っている。
「個性的だね〜」
『そうね』
エイミーに苦笑いで同意した。
「お掛けなさい。私の子どもたちよ。さあ」
そう言った先生の言葉で、おずおずと肘掛椅子に座る生徒と、丸椅子に腰を下ろす生徒がいた。私は、エイミーと同じ丸テーブルに腰かける。
「'占い学'にようこそ。私が、トレローニー教授です。多分、私の姿を見たことはないでしょうね。学校の俗世の騒がしさの中にしばしば降りて参りますと、私の'心眼'が曇ってしまいますので」
トレローニー先生自身は、暖炉の前の背もたれの高いゆったりした肘掛椅子に座っている。そして、その後に続いた思いも掛けない宣告に、誰一人返す言葉もなかった。優雅にショールを掛け直し、トレローニー先生は、話を続ける。
「みなさまがお選びになったのは、'占い学'。魔法の学問の中でも一番難しいものですわ。はじめにお断りしておきましょう。'眼力'の備わっていない方には、私がお教えできることはほとんどありませんのよ。この学問では、書物はあるところまでしか教えてくれませんの...」
ハーマイオニーの方を見ると、書物がこの学科にあまり役に立たないと聞いて、とても驚いているようだった。
「いかに優れた魔法使いや魔女たりとも、派手な音や匂いに優れ、雲隠れ術に長けていても、未来の神秘のベールを見透すことはできません」
巨大な目できらりきらりと生徒達の不安そうな顔を一人一人見ながら、トレローニー先生は話を続けた。