第46章 優しさ
さらにバジリスクの目を見て、原因はわからないがトムのいた時代に行って容姿も前世の私だったこと、頭痛と共に記憶を失ってしまったこと。今まで誰にも話さなかったことを全て話した。私が話し終わると、沈黙が続いた。
『信じられないわよね...。わかってるわ、大丈夫よ』
「頑張ったんだね」
『...え?』
トムがポツリと溢した言葉に聞き返す。
「ユウミは、頑張ったんだね。そんなこと誰にも話せなかったよね。大変だったね」
トムはそう言って私の頭を優しく撫でた。
『...信じてくれるの?』
「もちろんだよ」
トムが優しく微笑んだのを見て、私も微笑む。トムは私の前では変わらない、あのときと同じく優しいトムだった。
「僕が君を守るよ。ユウミは、たくさんの人を救うつもりなんだろう?だから、僕が君を助けて君を守るよ」
『...トム...』
「まぁ、ユウミが大変な思いするのは未来の僕が主な原因だよね。そんな僕のこと、信じられないかい?」
寂しげなトムを見て、私は首を振る。
『いいえ。信じるわ。ありがとう、トム』
トムと微笑みあった私は、あることに気づく。
『ねぇ、トム?この切れ端がトムの本体ってことよね?他のに移せたり出来ないかしら?』
紙の切れ端だとどうにもなくしてしまいそうだった私は、トムに問いかける。
「出来るけど、ユウミの魔力を多く使うことになるよ。ユウミの魔力なら他の人よりは少なくてすむと思うけど」
『やってほしいわ』
「どれにうつしたらいいんだい?」
ピンと閃いた私は、ポケットからあるものを取り出す。
「それは...」
『トムにもらった猫のぬいぐるみよ。これは私のポケットの中に入っていたの』
トムは、私から猫のぬいぐるみを受け取ってまじまじと見つめている。
『それじゃ嫌だった?』
「大丈夫だよ、ユウミベッドに座って?」
猫のぬいぐるみを取り出すために立っていた私は、トムの言うとおりに腰掛ける。
「杖を貸してくれるかい?」
私が、トムに杖を渡すとトムはその杖をベルトに差し込んだ。トムが片手を私に出したため、私はその手の上に自分の手を乗せた。
「もらうよ」
コクンと頷くと、少しの間をおいて体の中から何かが抜けていくような感覚がした。
「やっておくから、楽にしていて」