第46章 優しさ
頭の中では、トムが生きているということはこの先ハリーが困るのではないかとか色々なことを考えた。しかし体は正直で、片方の目から一粒涙が落ちたのをきっかけに、ポロポロと後から後から涙が出てきてしまう。
「...ユウミ」
困ったような表情をしたトムは、ゆっくりと私に近づいてそっと抱き締めた。そして、優しく背中を擦る。
『ご、ごめんなさい。もう大丈夫よ』
しばらくして私はトムから離れて涙を拭い、トムを見上げる。
『何をするつもりなの?』
「...何もするつもりはないよ。ただ...」
トムはそこで言葉を濁す。
『ただ?』
「ユウミと話したかっただけさ。あのとき、結局話せなかったしね」
私は口を閉じて考え込む。もちろん気持ちはとても嬉しいが、それを鵜呑みにしていいものなのか。
「本当だよ。それに僕は君から魔力をもらわないと実体化は出来ないし、呪文も使えない」
疑っているのがわかったのかトムはそう続けた。
『...さっき私が持ったときに?』
「うん、もらったよ」
魔力は、先程私が日記の切れ端を持っていたときにもらったらしい。私にはまだ気になることがあった。
『トム...あの日記は分霊箱よね?あなたが生きているってことは壊れてないの?』
トムは、顔を驚きに染める。
「僕もユウミに聞きたいことがいくつかある。でも先に答えておくと、もう分霊箱としての機能はないよ。バジリスクの毒でなくなった。そこは安心して」
私はそこでほっと息をついた。分霊箱が壊されているならハリー達が困ることはないだろう。ここで私は、トムと一緒にいたいと思っていることに気づいた。
『トム...聞きたいことは?』
「ユウミは、あのとき僕と一緒に過ごしたよね。でも、今のユウミはあのときと同じままだよね。容姿は違うけど。どうして?」
私はやっぱりそれを聞かれるかと思った。ぐっと決意を固める。
『今から話すことは、非現実的だわ。信じられないと思う。それでもいいなら聞いてほしい』
「わかった。聞くよ」
真剣な私の顔を見て、トムも顔を真剣にさせて頷いた。私達は、私のベッドに腰掛けてカーテンを引いて防音の魔法をトムにかけてもらう。そして私に前世の記憶があること、その記憶の中に本として今ここの世界が書いてあったことを話した。