第45章 バジリスク
しばらく涙を流していた私の目に、ふとバジリスクが見えた。ふらっと立ち上がった私は、バジリスクの元に近づく。
『バジリスク...』
バジリスクともトムを通して仲良く遊んでいた私。バジリスクの近くに座り込んだ私は、そのまま、時間が経つのも忘れてずっと涙を流していた。そんな私の両脇に何かが降り立ったのがわかる。右と左を交互に見て、名前を呟く。
『...フォークス...ミーア』
「ホー」
ミーアは私の肩にとまり直すと、慰めるかのようにすりすりとすり寄ってくれる。
『ありがとう、ミーア。フォークスもね』
私はそっとミーアとフォークスを撫でる。この2匹が来た意味がなんとなく私にはわかっていた。
『アルバスがそろそろ帰っておいでって言ってるのね?』
ミーアを撫でたまま、フォークスに聞くとそうだというように一声鳴く。私はすっと立ち上がり、バジリスクに近づいた。
『安らかに眠ってね』
バジリスクに自分の片手を当てて、そう呟く。そして、フォークスとミーアの方に振り向いた。
『帰りましょう』
私はフォークスに掴まり、嘆きのマートルのトイレの湿った床に着地した。パイプを覆い隠していた手洗い台がひとりでに元の位置に戻る。
『ありがとう、フォークス』
「あら、遅かったじゃない?」
声が聞こえた方を見ると、マートルだ。
『...そうね。でも帰ってきたわ』
「一緒に住めると思ったのに残念ね」
マートルは心底残念そうな声を出した。私はそっとマートルを見上げて謝る。
「また遊びに来たら、許してあげないこともないわ」
照れ隠しだろう。マートルはそのまま個室に行ってしまったので、私はトイレを出る。フォークスに導かれて辿り着いたのは、校長室だ。
『あ』
思わず声が出てしまった。校長室の前に、部屋の主がいたのだ。
「思い出したのかね?」
『はい』
問いかけられた言葉に私は頷く。
「よく帰った、ユウミ」
優しく微笑んだアルバスに、私は近づいて笑う。
『アル...ダンブルドア先生、覚えていたんですか?』
ダンブルドア先生は寂しそうに微笑みこう言った。
「わしは、前のように呼ばれたいのう」
『...アルバス、覚えていたんですか?』
「その話は今度ゆっくり話そう。今、君にはするべきことがある」