第45章 バジリスク
ジニーが動いていた。私達がジニーに駆け寄ると、ジニーは身体を起こす。ぼんやりとした目で、ジニーはバジリスクの巨大な死骸を見てから、ハリーを見て、血に染まったハリーのローブに目をやる。そして、ハリーの手にある日記を見た。途端にジニーは身震いして大きく息を呑んだ。それから涙がどっと溢れてきた。
「ハリー...ああ、ハリー...わたし、朝食のときあなたに打ち明けようとしたの。でも、パーシーの前では、い、言えなかった。ハリー、わたしがやったの...でも、わたし...そ、そんなつもりじゃなかった。う、嘘じゃないわ...リ、リドルがやらせたの。わたしに乗り移ったの...そして...いったいどうやってあれをやっつけたの...あんなすごいものを?リドルはど、どこ?リドルが日記帳から出てきて、そのあとのことは、お、覚えていないわ...」
気が動転しているのか私には、気づいてないようだ。
「もう大丈夫だよ」
ハリーは日記を持ち上げ、その真ん中の毒牙で焼かれた穴を、ジニーに見せる。
「リドルはおしまいだ。見てごらん!リドル、それにバジリスクもだ。おいで、ジニー。早くここを出よう...」
「わたし、退学になるわ。わたし、ビ、ビルがホグワーツに入ってからずっと、この学校に入ることを楽しみにしていたのに、も、もう退学になるんだわ...パパやママが、な、なんて言うかしら?」
泣きながら言うジニーを、ハリーはぎこちなく支えて立ち上がらせた。
『私、少し残るわ。ちゃんと帰るから心配しないで』
そんなハリーに、ジニーに見つからないように小声で私は告げる。ハリーが口を開く前に、私はさらに言った。
『こんなところにいつまでもいたら、ジニーが可哀想よ。さぁ、早く』
何か言いたげだったハリーは口を閉じて、ジニーを促して歩かせ、死んで動かなくなったバジリスクのとぐろを乗り越え、薄暗がりに足音を響かせ、入り口を通ってトンネルへと戻っていった。ハリー達がいなくなったのを見てから、私は急に足の力が抜けたようにそこに座り込んだ。そして...
『トム...』
今まで我慢していた涙を溢す。トムがどんな人だったのかも決していい人ではないのもわかっている。ただ、ほんの少し前まで一緒に過ごしてよくしてくれたのだ。私にはたくさんたくさん、優しくしてくれた。そんなことを思っていると、次々に涙が溢れだす。