第45章 バジリスク
私の手を持ったまま、トムはハリーに近づく。
「ハリー・ポッター、君は死んだ。死んだ。ダンブルドアの鳥にさえそれがわかるらしい。鳥が何をしているか、見えるかい?泣いているよ」
そっと優しく私の手を離したトムは続けてこう言った。
「ハリー・ポッター、僕はここに座って、君の臨終を見物させてもらおう。ゆっくりやってくれ。僕は急ぎはしない。これで有名なハリー・ポッターもおしまいだ」
私はゆっくりと目を瞑り、唇を噛み締める。ここからの展開は鮮明に覚えていたからだ。
「愚かにも挑戦した闇の帝王に、遂に敗北するのだ。もうすぐ、'穢れた血'の恋しい母親の元に行けるよ、ハリー...君の命を、12年延ばしただけだった母親に...しかし、ヴォルデモート卿は結局君の息の根を止めた。そうなることは、君もわかっていたはずだ」
そして、それを止めることなど出来ない。
「鳥め、どけ。そいつから離れろ。聞こえないのか。どけ!」
トムの声に、私は目を開けてハリーの腕を見つめる。傷が綺麗に消えていた。
「不死鳥の涙...そうだ...癒しの力...忘れていた...。しかし、結果は同じだ」
トムが、ハリーの腕をじっと見つめながら低い声で言い、杖を振り上げる。すると羽音とともに、フォークスが頭上に舞い戻って、ハリーの膝に何かをポトリと落とした。日記だ。ほんの一瞬、ハリーも杖を振り上げたままのトムも日記を見つめた。
そして、ためらいもせず、まるではじめからそうするつもりだったかのように、ハリーは傍に落ちていたバジリスクの牙を掴み、日記帳の真芯にズブリと突き立てる。恐ろしい、耳をつんざくような悲鳴が長々と響いた。日記帳からインクが激流のようにほとばしり、トムは身体を振り、悶え、悲鳴をあげながらのたうち廻っている。
私は、目を背けて固く固く目を瞑った。しばらくして、静寂が訪れる。トムは、消えてしまった。全身を震わせたハリーはやっと立ち上がり、私に尋ねる。
「ユウミ、大丈夫?」
『私は大丈夫よ。何もできなくてごめんなさい』
ハリーに笑顔を作った。そんな私にハリーは気にしなくていいと微笑む。ハリーは、ふらふらとしながらも杖や組分け帽子,剣を自分の手に持った。私の耳に、秘密の部屋の隅のほうからかすかな呻き声が聞こえてきた。私とハリーは顔を見合わせる。