第45章 バジリスク
私の体に何かがまわった感覚がして、怖くて瞑った目を開く。
「ユウミを離せ!」
ハリーの叫んだ声に後ろを見ると、どうやら私はトムに後ろから抱き締められるような形になったみたいだ。
「ユウミを傷つけるつもりはないよ。少し我慢してるんだよ」
前半をハリーに後半を私に言ったトムは、そのまま片手で私の目を覆った。トムからシューシューという音が聞こえてくる。パーセルタングだ。ハリーなら、トムが何を言っているかわかるのだろうか。
『何...!』
何か巨大なものが部屋の石の床に落ち、床の振動が伝わってくる。目をトムに覆われた私には予想することしか出来ないが、バジリスクが現れたのだろう。トムから低いシューッという声が聴こえてきた。
「大丈夫だよ、ユウミは心配しなくても」
怖がっている私に気づいたのか、トムが宥めるように空いている手で頭を撫でてくれる。そのとき、何かがぶつかるような衝撃音が聞こえてきた。次に私の耳に、狂ったようなシューシューという音と、何かがのた打ち廻って、柱を叩き付けている音が聴こえてくる。
「目を瞑っているんだよ」
トムが離れたのを感じて、私はうっすらと目を開く。フォークスがバジリスクの目を潰したみたいだ。目をしっかりと開いた私は、トムが叫んでバジリスクに命令しているのが聞こえてきた。バジリスクが尾を大きく一振りしたときに、組分け帽子がハリーのところへ飛んでいく。ハリーはそれをしっかりと掴み、帽子を被った。
「お願い、助けて!」
ハリーがそう祈ると、ハリーは何かに気づいたように帽子の中から、眩い光りを放つ銀の'剣'を取り出した。柄には卵ほどもあるルビーが輝いている。ハリーはバジリスクの攻撃から、2度危うくかわす。ハリーは両方の手で'剣'を、高々と掲げた。
そして、鍔まで届くほど深く、毒蛇の口蓋にズブリと突き刺した。その時に、ハリーの肘のすぐ上のところに長い毒牙が一本突き刺さってしまう。牙が折れ、毒牙の破片をハリーの腕に残したまま、バジリスクは横倒しに床に倒れ痙攣しだす。ハリーは、壁にもたれたまま崩れ落ちる。
『ハリー!』
ハリーに駆け寄ろうとした私は、前に進めなくなった。私の手をトムが掴んでいたのだ。それをそのままにして、ハリーの方を見た私はフォークスがハリーの傍にいるのを見て安心した。