第44章 記憶
トムをじっと見つめるハリー。しばらくして、ハリーはやっと口を開いた。
「そうはならない」
ハリーの静かな声に、万感の憎しみがこもっている。
「何が?」
すぐに切り返したトム。
「君は、世界一偉大な魔法使いじゃない。君をがっかりさせて気の毒だけど、世界一偉大な魔法使いはアルバス・ダンブルドアだ。みんながそう言っている。君が強大だったときでさえ、ホグワーツを乗っ取ることはおろか、手出しさえできなかった。ダンブルドアは、君が在学中は君のことをお見通しだった、君がどこに隠れていようと、いまだに君はダンブルドアを恐れている」
微笑が消え、トムの顔が醜悪になった。
「ダンブルドアは、僕の記憶に過ぎないものによって追放された!」
「ダンブルドアは、君が思っているほど、遠くに行ってはいない」
ハリーが言い返したその時、どこからともなく音楽が聴こえてきた。トムの顔が凍りつく。音楽はだんだん大きくなり、妖しく,奇妙で,神秘的でこの世のものとも思えない旋律だった。
やがて、すぐ傍の柱の頂上から炎が燃え上がる。白鳥ほどの大きさの深紅の鳥が、ドーム型の天井に、その不思議な旋律を響かせながら姿を現した。孔雀の羽のように長い金色の尾羽を輝かせ、まばゆい金色の爪にボロボロの包みを掴んでいる。
一瞬の後、鳥はハリーのほうに真っ直ぐに飛んできた。運んで来たボロボロのものをハリーの足元に落とし、ハリーの肩にずしりと止まる。鳥は歌うのをやめ、ハリーの頬にじっとその暖かな身体を寄せてしっかりとトムを見据えた。
「不死鳥だな...」
トムは、鋭い目で鳥を睨み返す。
「フォークス?」
そっと呟いたハリー。
「そして、それは...」
そう言ったリドルが、フォークスの落としたぼろに目をやった。
「それは、老いぼれの'組分け帽子'だ」
トムの言うとおりだ。ハリーの足元には、つぎはぎだらけでほつれた薄汚い帽子があり、ぴくりともしない。トムがまた笑い始めた。その高笑いが暗い部屋に反響し、まるで10人のトムが一度に笑っているかのようだ。
「ダンブルドアが味方に送って来たのはそんなものか!歌い鳥に古帽子じゃないか!ハリー・ポッター、さぞかし心強いだろう?もう安心だと思うか?」
ハリーは答えなかったが、トムが笑いやむのを待つうちに、ふつふつと勇気が沸き上がってきたみたいだ。