第44章 記憶
「つまり、この僕にだ。僕は、お陰でついに日記を抜け出すまでになった。僕とジニーとで、君が現れるのをここで待っていた。君が来ることはわかっていたよ。僕が予想外だったのは、君が来たことかな、ユウミ」
私はそこで初めてトムを見る。黒髪のあのときと変わらないトムがそこにはいた。
『来ちゃいけなかったかしら?』
「いいや、君とは話したかったからね。でも後でゆっくり話をしよう。僕はハリー・ポッター、君にいろいろ聞きたいことがあるんだ」
柔らかく微笑んだトムは、その表情をすぐに消してハリーの方を向く。
「なにを?」
ハリーは私を気にしてから、拳を固く握って吐き捨てるように言った。
「そうだな。これといって特別な魔力も持たない赤ん坊が、不世出の偉大な魔法使いをどうやって破ったのか?ヴォルデモート卿の力が打ち砕かれたのに、君のほうは、たった一つの傷痕だけで逃れたのはなぜか?」
トムは、愛想よく微笑んだ。ハリーを見つめるむさぼるような目に、奇妙な赤い光りがチラチラと漂っている。
「僕がなぜ逃れたのか、どうして君が気にするんだ?ヴォルデモートは、君よりあとに出て来た人物だろう」
慎重にハリーは問う。
「ヴォルデモートは、僕の過去であり、現在であり、未来なのだ、ハリー・ポッターよ...」
ポケットからハリーの杖を取り出し、トムは空中に文字を書いた。三つの単語が揺らめきながら淡く光る。
'TOM MARVOLO RIDDLE(トム・マールヴォロ・リドル)'
トムがもう一度杖を一振りすると、名前の文字が並び方を変えた。
'I AM LORD VOLDEMORT(私はヴォルデモート卿だ)'
「わかったね?この名前は、ホグワーツ在学中にすでに使っていた。もちろん親しい友人にしか明かしていなかったが。汚らわしいマグルの父親の姓を、僕がいつまでも使うと思うかい?母方の血筋にサラザール・スリザリンその人の血が流れているこの僕が?汚らしい俗なマグルの名前を、僕が生まれる前に、母が魔女だというだけで捨てたやつの名前を、僕がそのまま使うと思うかい?ありえないのだ、ハリー。僕は、自分の名前を自分で付けた。ある日必ずや、魔法界のすべてが口にすることを恐れる名前をだ。その日が来ることを僕は知っていた。僕が、世界一偉大な魔法使いになるその日を!」
ハリーは驚いたようだ。